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「……んっ」 なんだこれ、なんだこれっ!! 「あん、イワ、オさ…ん、んっ」 ……イワオさん? その名に一瞬気を取られた俺の耳に、荒い息遣いとちゅくちゅくと淫猥な水音が届いた。 「……あ、ん」 ちょっと、待ってくれ!  まさか! トイレの中で、会社のトイレの中で?  イ、イワオさんとテレフォンセッ…… 頭を抱えた。俺はどうしようもなく頭を抱えた。 止めさせるべきか? 部長がふたりも、加えて外国からの客まで待ってんだぞ? どうしたらいいんだ、この状況!? 俺が冷や汗をかきながらうろうろとトイレの中を歩き回っていると、入り口の方から話し声が聞えてきた。 だ、誰か来た! 俺は慌てて入り口扉を出てその前に陣取る。同じ品質管理課の男性課員二名が話をしながら俺の目の前までやってきた。 「ん? 笹川君どうしたんだ? 入らせてよ」 「ちょ、い、今清掃中で……」 「え、いいじゃないか。他の階まで行くの面倒くさいし、小便だけだし、ちょっとやらせてくれよ」 「む、無理っす!」 「なんでだよ、いいだろ?」 もうひとりの男性が中を覗き込もうとする。それに合わせて俺も身体をくねらせ、視線からトイレをガードする。 「そ、それが今、詰まっちゃって大変なことに!」 「うえっ、そんなでかいやつしたのかよ。笹川君、ちゃんと掃除しとけよ?」 「あ、はい! すんません!」 俺が勢いよく頭を下げると、ふたりは諦めた表情で他の階のトイレを目指し、去って行った。 「…………」 俺はくるりと体を反転させ、トイレに向き直る。 なんで俺がっ! なんで俺が、詰まるほどでかいやつした濡れ衣を負ってまで、東海林課長を守らなきゃならねぇんだよ! 沸騰しそうな怒りに拳を握ると、俺は扉を開けてずかずかとトイレの中に戻った。 でもイワオさんとのこのやりとりを中断させて、もしイワオさんからの連絡が途絶えたら、この人はまた泣くのか?  ホテル前の道端で涙ながらに俺に頼み込んできた東海林課長の必死な顔を思い出す。 ってか、東海林課長とイワオさんがどうなろうと俺には微塵も関係ないけど! くそっ! 早く終われよ!

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