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第3話「課長、風邪をひく」
「課長、残ってた検査結果が出たので報告書持ってきました」
俺は書類を手に、相変わらず綺麗に整頓された東海林課長の部屋に入る。課長と飲みに行ってから一週間が過ぎていた。
奥の窓からはまだ午前だというのに刺すような真夏の日差しがブラインドからはみ出している。
「ああ、ありがとう、確認したら製造二課に回しとくから」
言いながらパソコン画面から顔を上げた東海林課長の目の下には、くっきりとした隈ができていた。しかも全体的にくたびれている感じがする。
「課長……、なんすか、その顔? 寝てないんすか?」
俺はトレーに報告書を置くと、東海林課長の顔をしげしげと見つめる。
そういえば、今朝の朝礼にもギリギリで出社して来たような……。
「いや、その、実は昨日、イワオさんが夜中にどうしても僕に会いたいって呼び出されちゃって……」
東海林課長は恥ずかしげに頬を染め、首筋を掻いた。
「はあ……」
呆れた声で相槌を打つが、課長はまるで気づいていない。
「遅くなっちゃって、結局寝てなくて……」
困った口ぶりにも関わらず、喜びを隠しきれないのか口端は緩んでいる。
ってか、ただ単にイワオさんが夜中にヤりたくなったから呼び出されたってだけだろ!!
この人、完全に振り回されてんな……。
「そもそも、課長を昼間に呼び出したり、夜中に呼び出したり、イワオさんって何してる人なんすか?」
言葉に棘が出ないよう気をつけながら聞いてみる。
「実はね、笹川君……」
すると東海林課長は途端に真面目な顔つきになった。そして俺以外誰もいない室内を念入りに横目で確認しながら、手招きをして自分の口元へと俺を呼びつける。
「何なんすか……」
俺はめんどくさげに課長の顔の前に中腰になり、耳を傾けた。
「イワオさんは……」
「はあ」
課長は無意味にも声のトーンを抑え、ボリュームを潜めた。
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