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「……実は重要な国家機密に関わっている人なんだ! だから時間も不規則だし、とても忙しいから僕のメールにもほとんど返信できないそうなんだよ!」 浮き立つような声音には秘密を抱えた喜びと無邪気さが滲み出ていた。 「…………………………」 まさか課長、それ、信じてるんすか……? そ、それって課長を都合よく扱うための大ウソじゃないっすか……。 ってか、普通引っかからないでしょう……。 俺は目眩を感じそうになる自分を必死に堪える。 ……イワオさん、課長の性質、把握しきってるな。あんた、なかなかに手強いぜ……。 「笹川君?」 東海林課長の顔の前で無言のまま中腰で固まってしまった俺に、課長が不思議そうに囁く。 「そ、それは大変なお仕事っすね……」 俺は東海林課長のきっとキラキラとしているだろう瞳を直視することができず、よろけるようにその元から離れた。 「だろう?」 すると課長が満足げに頷く。 「だから笹川君もこのことは絶対に口外しないでくれよ?」 そう言って軽快に片目を瞑った東海林課長。 ああ、もう俺、無理だわ……。 課長をどうこうしようなんて俺がおこがましかったっす……。 「じゃ、お、俺、もう戻ります」 早くこの場から離れたい一心で声をかけた時、背後の扉をノックする音が聞こえた。 「東海林課長、今日もまた、案内お願いできますか?」 言いながら課長の部屋に入ってきたのは、製造部長だった。部長は製造用の白い作業着を着ていて、顔に困った笑みを浮かべている。 「ああ、時間ですね。すぐに行きます。では笹川君、報告書の件は了解したから」 東海林課長は仕事の顔に戻ると、ファイルをサイドテーブルにしまい、製造部長と部屋を出て行く。俺もそのあとに続いて課長の部屋を出た。 廊下に出ると、また外国人がふたり並んで待っていた。先日とは違う客のようで、来客用の白衣を着た男性と女性に、製造部長が東海林課長を紹介している。 俺はその様子を横目に見たあと、廊下の奥の喫煙室に行って一服することにした。 「ふう……。なんか色々疲れるな……」 カウンターテーブルに寄りかかり、独りごちながら煙草を吸っていると、製造部長が廊下の先からこちらに近づいてくるのが見えた。

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