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これはだいぶ酷そうだな……。 この様子じゃ朝からかなり悪かったんじゃないのか? くそっ、俺、ちっとも気づかなかった……。 「そうだったんすね。気をつけて帰ってくださいよ?」 心配と同時に悔しさが胸に湧き起こり、自分でも驚く。 なんだ、この気持ちは……? 調査対象の少しの変化に気づくのも、特命係の大事な仕事だ。 それができなかったから悔しいんだ。 ……きっと、そうだ。 「ああ、すまない。ただの、風邪だよ」 力なく手を上げた東海林課長の背中を俺は立ち尽くしたまま見送る。課長は昇ってきたエレベーターに乗り込もうとしたが、入り口の小さな段差に躓き、身体が傾いだ。 「課長!」 俺は慌てて手を伸ばすと、よろけた東海林課長の身体を支える。 「ほんとは少しどころじゃないんでしょ……」 俺の腕には課長の華奢な身体から、熱いくらいの体温が伝わってきた。 「かなり熱があるみたいっすね。俺、下まで一緒に行きます」 東海林課長の脇に手を差し入れ、腰に手を回し、身体を支えたまま一緒にエレベーターに乗り込んだ。 「笹川君、僕は、大丈夫だから……」 けれど課長は俺の腕から逃れようと身を捩った。 「全然大丈夫じゃないでしょ? 離したら倒れそうじゃないですか」 俺は言い訳のような口調で言いながら、課長の体をより強く自分のほうへ引き寄せ、すぐに開閉ボタンと一階のボタンを押した。 エレベーターの箱がゆっくりと動き出す。 俺、何したいんだ……?  課長はいいって言ってるのに……。 自分自身に戸惑いつつ階数表示を見上げた俺の頬に、東海林課長の髪の毛が触れる。微かに漂う甘く爽やかな香りに、何故か胸が苦しい。心臓が勝手に鼓動を速め始める。 「残業続きの上に、イワオさんからの夜中の呼び出しに応じたりしてたからっすよ」 東海林課長から伝わる高い体温に再び心配と不安が押し寄せたが、俺は素っ気なくそんな言葉を言い放つことしかできなかった。 「そうだな、ごめん……」 東海林課長は俯いたまま弱々しい声で答える。 「夏風邪はタチ悪いんすよ? 仕事にだけは支障をきたさないよう、あれだけ言っておいたのに」 俺は小言を続ける。課長に聞こえるんじゃないかってくらい煩く鳴る自分の鼓動から、どうにか気を逸らしたかった。 本当はこんなことが言いたいんじゃねぇのに……。 自分にイライラする。

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