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「すまない、笹川君。君は……、もう仕事に戻って……」 「……っ」 またもや俺を拒もうとする東海林課長の頭を、次の瞬間、俺は無理やり自分の肩に抱き寄せていた。 課長の頭の重みが肩に、汗ばんだ髪の毛の湿度が手のひらに伝わる。 「笹、川君……?」 課長が戸惑う声を上げ、すぐさま身体を起こそうとする。だがその力は最早弱く、俺の腕からは抗いきれない。 「東海林課長……、俺に……」 課長の頭を強引に抱いたまま、俺は小さく呻くようにそこまで言って、グッと口を噤んだ。 心臓がズクン、ズクンと痛いくらいに波打っていた。 くそっ、何だ、この痛み? 東海林課長の髪に触れる俺の指先は震えている。 俺に……なんだ?  一体俺、どうしたいんだ? 課長に甘えて欲しいのか? イワオさんじゃなく、俺に……? 課長は相当辛いのか、もう抵抗することなく俺の肩に身を委ねていた。静かなエントランスホールに課長の苦しそうな呼吸音と、俺の鼓動音だけが響いている。 何やってんだ、俺。 この人は調査対象で……。 しかも、男で……。 イワオさんという謎の男のことが三度の飯より好きで……。 そのせいでプロジェクトの参加が危うくなっている、ただの品質管理課の課長だ。 俺は東海林課長を抱いていない左手で顔を覆うようにこめかみを揉んだ。 自分がわからない。 でも今はとにかく、課長の身体が一番だ。 そう思い直して玄関前を見ると、ちょうど黄色い車体が滑り込んでくるところだった。

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