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「課長、タクシー来ました。立てますか?」
東海林課長の頭から手を離し、身体を支えながら立ち上がらせた。
玄関を出てタクシーの後部座席になんとか課長を乗り込ませると、車内に半身を差し入れ、運転手に声をかける。
「この辺で内科のいい病院あります?」
「まあ、この辺りなら白石さんかな?」
「じゃあこの人をその病院までお願いします」
しかし運転手は後ろの課長を見やり、あからさまにやっかいそうな顔つきをする。
「大丈夫かい、この人。吐かれでもしたら迷惑なんだけど」
俺はスラックスのポケットから財布を取り出すと、紙幣を抜き取り、運転手に手渡す。
「お釣りは要らないんで、病院に連れて行ったら診察が終わるまで外で待っててください。そしてそのあと、この人から自宅の住所を聞いて、そこまで送りつけてください」
「あ、ああ」
運転手は金を受け取ると、少し苦い顔をしながらも頷いた。
「課長、いいですか? 俺はまだ仕事があるんで一緒には行けないですけど、この運転手さんが病院まで連れて行ってくれますから。ちゃんと診察してもらってくださいね?」
荒い息を吐く東海林課長に言い聞かせると、車体から身を離した。
「笹川君……」
課長がか細い声で俺の名前を呼んだ。
「なんすか?」
慌てて再び車内に顔を寄せる。
「……ありがとう」
東海林課長は安心したかのように小さく微笑んだ。
ドキンと心臓が強く鳴り、顔が紅潮しかける。
俺は即座に課長の顔から目を逸らし、運転手に声をかけた。
「出してください」
俺が離れると、扉が閉まりタクシーは動き出した。
黄色い車体が視界から見えなくなったあとも、俺は長い時間、その場に立ち尽くしていた。
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