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「くっそー! もう宇佐美には戻りたくねぇ!」
中原は悪態を吐きながら何杯目かの焼酎を呷った。
「はいよ」
カウンター席に並んで座った俺たちの前に、店主が焼き鳥を載せた皿を差し出す。
「あざっす」
俺が受け取り、中原の前に置いた。
「呑んでばかりいねぇで食えよ」
「これが呑まずにいられるか。マスター、焼酎おかわり!」
俺は今、中原の自棄酒に付き合わされている。本社に寄った帰りに電話をしてきた中原は強引に俺を呑みに誘い出した。
『女は現地調達』を信条としている中原だったが、今回派遣された宇佐美支店には定年間際の事務の女性がひとりいるだけだったらしい。
派遣されて一ヶ月近くが経ち、それに耐えられなくなってきたというわけだ。
きっと宇佐美支店の支店長の評価はかなり辛くなるぞ……。
「おまえはいいよなあ、松岡工場なら若くていい女いっぱいいるだろ?」
ネクタイを緩めた中原がカウンターに上体を凭れさせて横目で睨む。
「まあな……」
俺は答えながら、何故か東海林課長の顔が頭に浮かび、思わずビールを噴き出しそうになった。
おいおい、なんで課長なんだよ!
ここで思い出すなら舞浜さんだろ!
確かに顔は綺麗だが東海林課長は……、わかりきってることだが、男だぞ?
しかも泣き虫で、訳のわからん行動を取るイタい男だぞ?
「はああああ」
俺は自分自身に溜息を吐いた。
それにしても……、具合は大丈夫だろうか。ちゃんと病院で診察受けて、家まで辿り着けたかな……。
「おい、どうしたんだよ、笹川。は! まさかもう女ができたのか? おまえ背高くてガタイいいし、よーく見たら顔もまあまあいいもんな!」
中原はカウンターからガバリと体を起こし、見開いた目で俺に詰め寄った。
「『よーく見たら』と『まあまあ』は余計だ! ったく、いねぇよ、そんなんは」
言い捨てて、中原の前から焼き鳥の串を一本手に取り、口に運ぶ。
「よかったぜ……。これで笹川にまで女ができたら俺、やってらんねぇよ。この特命が終わったら合コンするからな! おまえも呼んでやるからよ」
気持ちが持ち直したのか中原は明るい表情になってまた酒を頼んだ。
「おいおい、呑み過ぎだって……」
中原はやってきたグラスを一気に呷ると、愚痴りながらカウンターに突っ伏した。
「月曜からまたあの女っ気のない職場に戻るなんて……、もー泣きたいぜ……」
相変わらずこいつの酒癖、悪すぎる……。
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