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第4話「課長の宝物」

「笹川君、今度の土曜空いてる?」 検査を終え、シンクで器具を洗っている俺に舞浜さんが声をかけてきた。 「は、はい! 空いてます!」 俺は何の躊躇もなくそう答える。 「じゃあ、これあげる。今度の土曜、試写会があるの」 舞浜さんの手元にはハガキが一枚。 試写会……!! これ、デートか、これ! 何だかんだ悩んだが、やっぱり女子だ!  舞浜さんとデートしたら、俺のこの胸のモヤモヤもきっと晴れるに違いない! 「せっかく応募して取ったんだけど、彼氏がその週末、いきなり旅行に行こうって言い出しちゃって。もったいないから使ってね」 「えっ、舞浜さん、か、彼氏、いたんすか……」 煌めく笑顔で突然、重たいボディーブローを打ち込んでくる舞浜さんに、俺は血反吐を吐きそうになりながらもハガキを受け取る。 「ええ。笹川君だって彼女のひとりやふたり、いるでしょ? 笹川君が来てから製造部のパートのおばちゃんたち、品管に背の高いイケメンがいるって、色めき立ってるわよ?」 「ああ、そうっすか……。おばちゃんたちが、ね……」 そこは舞浜さんでお願いしたい……。 俺は泣く泣くハガキをスラックスの尻ポケットにねじ込むと、後片付けを終え、喫煙室にトボトボと歩いていく。 廊下の最奥の透明な喫煙室の手前には、自動販売機と簡素なベンチが置いてある。俺は自販機で缶コーヒーを買うと、煙草の箱を取り出しながら中に入った。夜七時を過ぎていて、喫煙室は元よりこの階にいる社員も少なくなっている。 ああ、舞浜さんには彼氏がね……。 そうだよな、あんだけ可愛いんだもんな……。 俺がぐちぐちとさっきの出来事を反芻しながら一服していると、自動販売機前のベンチに東海林課長が座ったのが見えた。脇にカバンを置き、開いたガラケーの画面を見ながら肩を落としている。 あれから課長は土日を休んだだけで月曜には仕事に復帰した。まだまだ全快というわけではなさそうだったが、その日は会議の予定もあり、無理して出てきたのだろう。 東海林課長が出社してきた日の出来事を思い出すと、俺は紫煙とともに深い溜息を吐いた。

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