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「お疲れ様です」 俺が頭を抱えてベンチに腰掛け課長を待っていると、清掃のおばちゃんがやって来た。 「あ、お疲れ様です」 おばちゃんはゴミ箱の空き缶やペットボトルを大きな黒いビニール袋に回収している。 「ん、それゴミですか? 一緒に持って行きましょうか?」 おばちゃんの視線の先には東海林課長のカバンからはみ出ていた空のペットボトルがあった。 「ああ、空みたいっすね。お願いします」 そのペットボトルを手渡すと、おばちゃんはビニール袋の中に投げ込み、大きくなった袋を抱えて廊下を戻っていった。 「ごめん、待たせて」 パタパタとした足音をさせて東海林課長が走って戻ってきた。 「いや、いいっすよ」 課長にカバンを手渡し、並んでエレベーターホールに歩き出した。 エレベーターを待つ間、ふたりの間に沈黙が流れる。俺はエレベーターの階数表示を見上げている課長の横顔をそっと覗き見た。 きっとこの人は、今もイワオさんのことを考えている。風邪をひいたあの日、俺のしたことは覚えてなくても、イワオさんにメールを送ったことは覚えてるんじゃないのか? そう考えるとズキンと胸が痛んだ。 くそっ、なんだよ、また、この痛み……。 「ん? どうかしたかい? 笹川君」 俺の視線に気づいたのか、東海林課長がこちらを振り返った。 「い、いや、なんでもないっす。課長って黙ってるとやっぱ綺麗……」 「あれっ?」 思わず口に出た俺の言葉を遮ると、東海林課長は素っ頓狂な声を上げた。その手は焦ったようにカバンの中を弄っている。 「な、ないっ! なんで?」 「どうしたんすか? 財布でも失くしたんすか?」 みるみる蒼白になっていく課長の慌てように俺も緊迫した声を上げる。 「ないんだ! ペットボトルが!」 ……なんだ、ゴミの話か。 「ああ、あの空のペットボトルなら、俺が捨てましたよ」 俺は安堵の息を吐きながら、やって来たエレベーターに乗り込もうとした。 しかし次の瞬間、背後で泣き叫ぶような東海林課長の声が響いた。 「な、なんでそんな勝手なことをするんだっ!」 「え……?」 慌てて振り返ると、眉を歪ませ、怒りに満ちた瞳でこちらを睨みつける課長の姿があった。

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