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「あ、あれは、あのペットボトルは、イワオさんが唯一僕に買ってくれたものなんだ! 僕に、イワオさんが買ってくれた……、だから、ジュースを飲んでしまっても、大切に……」 そこまで言って課長は声を詰まらせると、顔を覆い、蹲るように背を丸めた。 マジかよ……。 なんで空のペットボトル一本ごときでそこまで打ちひしがれるんだよ! しかも俺がやった缶コーヒーの空き缶は速攻捨てたくせに! くそっ! 俺は嗚咽を上げ始めた東海林課長の腕を掴むと、無理やりエレベーターに乗せ、一階まで下りた。エントランスホールを横切り、廊下の先にある清掃室の扉を叩く。 「すんません、おばちゃん! まだいますか?」 隣の東海林課長は驚いた顔で俺を見上げている。 「はいはい、どうしました?」 のんびりとした声音とともに扉から顔を出したのは、さっきゴミを回収していったおばちゃんだった。 「すんません、さっき回収したペットボトル、どこにありますか? やっぱり必要だったんで」 「あら、そうなの? ゴミは明日しか回収にこないから、まだあるはずですよ」 「よかった……!」 安堵の息を漏らしながら課長を見下ろすと、その顔から僅かに緊張が解けていた。 「で、どこにあるんすか?」 「守衛室の先にゴミ集積室ってのがあるでしょ? そこに集められてますよ」 俺と課長は急いで教えられたゴミ集積室に向かった。しかし、そこに辿りついた俺は絶句する。 ペットボトルの入った黒い大きなビニール袋が山のように積まれていたからだ。 「こ、これのどれかに課長のペットボトルが入ってるわけっすね……」 俺は心が折れそうになりながらもワイシャツの袖を捲り始めた。 するとクイッとシャツの裾が引っ張られる。 「ん?」 振り返ると、東海林課長の指先が俺のシャツを摘んでいた。 「もういい、笹川君。こんなにあるのに探し出すなんて無理だ」 課長は辛そうに眉根を寄せ、諦めようとしているのか、ゴミの山を見ないように俯いている。俺はそんな課長の肩に手を置いて顔を覗き込んだ。

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