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汚れていない手の甲で課長の濡れた目元を拭ってやる。課長の涙が皮膚に触れると、そこだけが異常に熱く感じられた。心臓が早鐘を打つ。
「……課長、できれば泣かずに笑って欲しいんすけど」
俺がそう頼むと、課長は無理やり口角を上げ、笑顔を作った。だけど瞳には涙がいっぱい溜まっていて、眉は顰められたままだった。
「ははっ、なんすか、その顔! その泣き虫加減はどうにかしてほしいもんですね」
「ふふっ」
東海林課長は俺の言葉に噴き出して、今度は自然な笑みを零した。
「……っ」
くそっ、笑うと可愛いな……。
って、何考えてんだよ!
戸惑いに身動ぎした俺は尻の下で違和感を覚えた。
ああ、ポケットに詰め込んでいた舞浜さんからもらった試写会のハガキか。
そうだ!
俺は軽く尻を上げ、ポケットからハガキを引き出した。
「課長、今日のお詫びってわけでもないんすけど、今度の土曜これ、行きましょう」
どうせこの人、仕事のない休みなんて、イワオさんの連絡待ちとかしてそうだよな。今日もなんか落ち込んでたし、気分転換にでもどっか出かけたほうがいいだろ。
「え?」
課長は驚いた顔で俺の手元の紙をしげしげと見つめた。
「舞浜さんにもらったんすけど、二人分だから」
少し言い訳めいたことを口にし、東海林課長の返事を待つ。すると課長は俺の顔へと視線を戻し、透き通るような笑顔を見せた。
「本当にいいのかい? この映画、見たかったんだ!」
嬉しそうな東海林課長の顔を見た途端、心臓をギュッと掴まれるような、これまでに感じたことのない甘い痛みが胸に走った。
俺もつられて笑顔になると、涙の跡の残った課長の頬をもう一度、手の甲で優しく拭った。
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