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第5話「課長とデート」
土曜日。
俺は試写会のある映画館の前で東海林課長を待っていた。
火の点いていない煙草を咥え、イライラと人ごみの流れに目をやる。待ち合わせの時間までにはまだ五分ほどある。
早く来すぎたかな。ほんとにあの人来んだよな……。
俺はスマホを取り出し、もう一度時刻を確認する。
約束の時間、合ってるよな。大丈夫だよな。
なんだ俺、緊張してんのか? まさかな!
ただ会社の上司と映画見に行くだけだろ。
「ごめん、笹川君、待たせたかな?」
背後から東海林課長の声が聞こえ、俺は安堵の息を吐く。
「え、いや、俺も今来たばかりで……」
女子みたいな答えを口にしながら、声のしたほうを振り返った。
「!!」
そこには初めて見る私服姿の東海林課長が立っていた。その姿を見た俺は、口に咥えていた煙草を思わずポロリと路上に落とす。
「ん、どうかしたかい?」
無邪気に訊ねる東海林課長は、どこで買ったのか、意味不明なアルファベットが胸にでかでかと刺しゅうされた青いポロシャツに、明らかに裾の長さが足りていないチノパン、足元はスーツの時と同じ革靴を履いていた。足首の隙間からは白い靴下が垣間見えている。そして極めつけに、手元には革のセカンドバッグ……。
……か、課長、勉強ばかりしてたってのは本当だったんですね……。
いや、俺だってただジーンズにシャツって格好ですけど……。
でも、会社で見る東海林課長のスーツやネクタイのセンスは抜群なのに、なぜ……。
俺は落とした煙草を拾い上げながら課長に問う。
「しょ、東海林課長、唐突ですが、スーツはどこで買ってるんすか?」
「え? スーツ? ああ、前に製造部長に紹介してもらった店でいつも一式揃えてもらうんだ」
課長はキョトンとした表情ながらもきちんと答えてくれる。
ああ、プロが揃えてくれてたんすね……。道理で……。
私服の課長はこんなにダサいなんて、会社のみんなが知ったらどんなリアクションするだろう……。
「くっ」
俺は込み上げてきそうになる笑いを必死に堪える。
ん? でも、待てよ……?
ということは、こんな姿の課長、俺以外知らないわけか……。
「っ!」
そこまで思い至った瞬間、耳がカッと熱くなった。
「?」
ひとり考え込んだり赤くなったりしている俺の顔を、課長は小首を傾げて覗き込んでいる。
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