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まったく似合っていない鮮やかな青色が映えたその綺麗な顔を見つめ返すと、胸の奥がギュッと締まる痛みを感じた。 これは、俺だけが知る課長の姿……。 両手で頭を抱えた。 無意識にゴクリと唾液を飲み込む。 な、なぜだ!? 目の前の東海林課長が可愛く見えてきてしまう……!  何なんだよ、その靴下のワンポイントは……っ! 「笹川君もスーツ買うのかい? 紹介しようか?」 「え、いや、俺は量販店のもので充分っす。さ、始まりますよ、行きましょう!」 気を取り直し慌てて頭から手を離すと、不思議そうに俺の顔を見上げていた東海林課長を映画館の入り口へと強引に促した。      * 映画は、くそつまらなかった。 ハリウッド映画のいわゆるラブコメの女王なる女優が出ているもので、ストーリーも先が見えていた。 「あんま面白く……」 館内が明るくなると、俺は声をかけながら隣の東海林課長を振り返った。 「ううっ、すごくよかったな、笹川君!」 するとそこには鼻を鳴らしながら涙ぐみ、ハンカチで目元を拭う課長の姿があった。 ええっ! な、泣いてる……。 「そ、そうっすね……」 何の迷いもない感涙した眼差しで見つめられ、仕方なくそう答える。 「あの主人公、ずっと好きだった人には振られたけど、最後に出会ったあの男の人と恋に落ちるんだな、きっと。すごくよかった!」 興奮した口調で映画の感想を述べた東海林課長は満足そうに息を吐くと、隣の俺の顔をまっすぐに見つめてきた。 「笹川君、誘ってくれて本当に、ありがとう!」 課長は俺に向かって綺麗に並んだ白い歯を零れさせながら満面の笑みを見せた。 俺は束の間、課長の笑顔に見入ってしまう。 「……い、いや、別にいいっすけど」 素っ気なく答えながら無理やり視線を剥がし、頭を掻いた。 やっぱ俺、変だ……。 東海林課長が笑うと、なんでこんなに満たされた気持ちになるんだろう……。 「んじゃ、出ましょうか」 俺は席を立ち、出口に向かって歩き出した。 なんていうか、課長って、素直なんだよな……。 だから、あのイワオさんって奴にだまくらかされるんだよ。 「はあ……」 そんなことを考えながら、チケット売り場のあるホールまでやって来た。そしてあとをついて来ているだろう東海林課長を振り返る。 「あれ?」 しかしそこに課長はいなかった。気配すらない。

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