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映画館から地下鉄で数駅行ったところに、東海林課長の住むマンションはあった。
薬剤師の資格を持ち、管理職でもある課長のマンションは、単身者向けだが、落ち着いたレンガ色の外壁がすらりと天に伸びる様が印象的な高級そうな建物だった。エントランス前にはきちんと刈り込まれた植え込みが行儀よく並んでいる。
やっぱ俺の安アパートとは違うな……。
「ここ、会社からも近いんすね」
「うん、そうだな」
俺たちは他愛ない会話を交わしながら七階までエレベーターで昇り、ガチャガチャと鍵を開けた課長のあとに続いて中へと入った。
「お、お邪魔します……」
広めの玄関を抜けると、両脇に風呂場とトイレがあり、右手にシンプルなキッチンがあった。まだ新しいのか、白い壁が綺麗だし、会社の東海林課長の部屋と同じく、どこもきちんと整頓されている。
「好きなとこに座って?」
課長に促され、扉を抜けて居間に入った。
正面の大きな掃き出し窓から午後の明るい陽射しが差し込み、フローリングの床に陽だまりを作っていた。左手には壁一面の本棚、反対側にはこのリビングの大きさにマッチした広い画面のテレビがチェストの上に置いてある。
「?」
しかし、モデルルームかと見紛うような部屋の中央には、イ草で編まれたゴザのラグが敷かれ、その上には使いこまれた渋い茶色のちゃぶ台が置かれていた。その脇には絣模様の紺色の座布団が一枚。
なんだこの、ここだけ昭和感は……!?
ま、まあ、ある意味個性的なインテリアも課長っぽいといえば、課長っぽいのだが……。
俺はちゃぶ台の傍に腰を下ろした。課長はセカンドバッグを床に置くと、「ちょっと待ってて」と言い置いてすぐにキッチンへと戻っていく。
「……っ」
ひとりになると俺は急いで胸を押さえた。
何なんだ、さっきから鳴り止まないこの激しい鼓動は!
いきなり家に誘われるなんて想定外だ!
手を繋いだことが課長の何かのスイッチを入れたのか!?
ってか、課長の考えてることはいつもわからねぇ!
俺は気持ちを落ちつけようと、綺麗に片づけられた室内をぐるりと見渡す。薬学の専門書が整然と並んでいる本棚の隣には寝室に繋がる扉が見えた。
課長はここで毎日暮らしてるのか……。
「はい、お茶。あ、座布団使って?」
漆塗りの丸いお盆に湯呑を乗せた東海林課長が扉を開けてやってくる。
「あ、はい、お構いなく!」
俺は緊張した面持ちで居住まいを正す。課長は魚の名前が書き連ねられた湯気の立つ湯呑を俺の前に置き、自分も斜向かいに改まって腰を下ろした。
なんだ、この湯呑……。ここは寿司屋か……?
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