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「あの、笹川君にお願いがあって」
「え、なんすか?」
真夏の熱々のお茶に苦戦しながら顔を上げると、神妙な面持ちの東海林課長がこちらを見つめていた。
「よかったらでいいんだが……。晩ご飯、食べていかないか?」
「え、そりゃ、ごちそうしてくれんなら、もちろん食っていきますけど」
事もなげに答えたが、課長はちゃぶ台に視線を落として、なおもモジモジと言い淀む。
「でも、その……えっと……、今から僕が作るんだけど……」
え? 今から作る? ってことは東海林課長の手料理?
「課長が俺に飯を作ってくれるんすか?」
「あ、ああ……」
俺の問いに課長は恐る恐る顔を上げる。
「嫌、かな……?」
「え? 嫌なはずないでしょ? もちろん、ごちそうになります」
「ほんとか!?」
お盆を胸に抱え、晴れ渡る笑みを見せた東海林課長に俺は一も二もなく頷く。
「いや、ほんと、課長が作ってくれるんなら俺、なんでも食います」
なんか俺、今、すごく嬉しいんだけど……!
「笹川君、ありがとう! じゃあ、テレビでも見て待っててくれ!」
課長は跳ねるように居間を飛び出し、キッチンへ姿を消した。
すぐに扉を通して、まな板を取り出す音や冷蔵庫を開け閉めする音が聞こえ始める。
なんだ、俺に手作りの飯を食わせたいから家に誘ったのか。
理由がわかり安堵の息を吐くと同時に、温かいものが胸の中に広がる感覚がした。
それにしても喜んでたな、東海林課長。
俺はちゃぶ台の上に置かれたリモコンを手に取ると、電源を入れ、にやけそうになる顔をテレビに向けた。
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