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*** 「待たせててすまない」 それから小一時間ほどして、エプロンを付けた東海林課長が居間に顔を出した。 くそっ、エプロン姿、可愛いすぎる……。 きっとその辺のスーパーの衣料品コーナーで買っただけの、なんの変哲もない青色のエプロンなのに! しかもその下に着ている服は変なコーディネートなのに! なんだその胸元の犬のワッペン!  俺は自分の頬に熱が集まるのがわかって動揺する。しかし課長はそんな俺にお構いなく、エプロン姿を晒しながらお盆に乗せて持ってきた皿をちゃぶ台の上に順に並べていく。 目の前のメインの皿にはホカホカの豚の生姜焼きと付け合わせのキャベツ、トマトが彩りよく盛り付けられていた。小鉢には焼きナス、椀には豆腐とわかめの味噌汁。最後に置かれた白米の白さが、ますます食欲を掻き立てる。 「なにこれ、すげー美味そう!」 俺は並べられた料理を見て感嘆の声を上げた。 「ほ、ほんとかい?」 皿を並べ終えると、課長は照れたようにお盆で顔を隠す。 「遠慮なく食べてくれ」 「はい、いただきます!」 手を合わせたあと箸を取ると、まずは生姜焼きを口に運んだ。肉厚なのに柔らかくて甘辛い味付けも絶妙で、白飯が進む。 「マジ、美味いっす、課長! すげーな、料理もできるんすね!」 俺は次々に箸を進め、豪快に食っていく。 課長ってやればなんでもできるタイプなんだな。 それに何より課長が俺のために作ってくれたってことが、より美味く感じさせるのかもしれない。俺は胃袋とともに心も満たされていくのを感じる。 「味、濃いだろ? 大丈夫?」 課長が不安げに俺の顔を覗き込む。 「濃い目だけど課長の味付けがいいから全然大丈夫っす! めちゃくちゃ美味いっすよ!」 「よかった……!」 俺の返答に、課長はお盆を抱き締めたまま安心したように大きく息を吐いた。 「イワオさんが濃い味付けが好きって言ってたから、僕、濃い目に練習してたんだ」 ……え? 俺は焼きナスに付けた箸をピタリと止めた。

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