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6‐2
「部下? ああ、そうですよ。俺はあんたのただの部下ですよ」
俺は扉を押さえていないほうの手で頭を抱えた。
そんなことを言いたくてわざわざここまでやって来たのか? どうしたらこの人はわかってくれるんだ?
「笹川君……?」
課長がおろおろと視線を揺らした時だった。
またあの忌々しいメロウな着信音が課長の胸ポケットから鳴り響いた。そのメロディーにビクリと反応した課長がすぐさま胸に右手をやろうとする。
俺はその手を引っ掴んだ。
「え」
小さな驚きを口にし、東海林課長が顔を上げた。俺の険しい表情を見た課長の瞳に明らかな動揺が走る。
俺はそんな課長の顔を正面から見据えた。
「東海林課長、俺、あんたが好きです」
今じゃない。
言うなら今じゃない。
そんなこと、頭ではわかってんのに、言葉が口を衝いて出ていた。
「もう、イワオさんの所へは行かないでください」
口端から苦汁に満ちた声音で本音が零れ出す。
東海林課長を俺以外の男の元へなんかもうやりたくなかった。
この手を二度と離したくない。
凍りついたように見つめ合った俺と東海林課長の間(はざま)をメールではなく電話の着信なのか、愛を謳う甘くて軽やかな曲が流れ続けている。
電話に出ることができないためか、課長の瞳には次第に焦燥の色が濃くなっていった。俺はその瞳を見つめたまま、握った手に力を込めた。
ふたりの間に重くて長い沈黙が下りる。
暫くして、ピタリと着信音が鳴り止んだ。再び、雨の降る音だけに辺りが満たされる。
イワオさんからの幽かな糸が断ち切られると、東海林課長は苦しげに目を伏せた。そして探り当てた胸の奥の答えを、苦い塊を吐き出すかのように途切れ途切れに口にした。
「……僕は、僕を好きになるような人は、好きじゃない……」
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