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翌日の日曜。俺は実家に帰っていた。
同窓会に出席する長姉から子供の面倒を見ろと電話がかかってきたのだ。
「なあ、史郎。いつになったら3BS買ってきてくれんだよー」
小学生になったばかりの甥っ子の元気(げんき)が洗濯物を畳む俺の背後から首元に腕を絡ませ、甘えた声を出す。
「はあ? あんな何万もするゲーム機買えるわけねぇだろ」
「ちっ、これだから安月給は!」
俺の返答に元気は途端に冷めた声を出すと、背中を離れ、テレビの前に座り込んだ。
このガキは……。
そこにスーパーの袋を提げて帰ってきた親父が顔を出す。親父は町内会の集まりに参加したあと夕飯の買い物までしてきたらしい。
母さんは視察旅行、次姉は休日出勤だそうだ。
「折角の休みにすまなかったな、史郎。晩飯は食べていくかい?」
親父は大根やらひき肉やらをシンクの上に置きながら訊ねた。
「あ、ああ」
返事をしつつも俺の目は親父の背中に注がれる。
なんか親父、また小さくなってないか?
万年係長な上に、女三人と孫の面倒、それに主婦業……。
「…………」
そうだよ、俺はこの親父の背中を見て育って、出世欲に目覚めたんだ。
俺、当初の目的を忘れてないか?
手に持っていた次姉のパンツに視線を落とした。
俺の目標はあの会社で出世することだっただろ?
いつも母さんの尻に敷かれている万年係長の親父みたいには絶対ならないって思ってただろ?
姉貴たちにもう好きにはさせないって決意してただろ?
中原の言ってたとおり、調査対象に感情移入したり、いつまでも関わったりしている暇はないんだ。
洗濯物を畳み終えると、俺は台所にいる親父の隣に立った。
「あとは俺がやるから、親父は元気とテレビでも見てろよ」
「ああ、すまないな」
親父は鼻先にずれていた眼鏡をずり上げながら、台所を出ていく。
今日も昨日に引き続き雨が降っていた。雨の音が思い出したくもない情景を目の前に運んでくる。
『……僕は、僕を好きになるような人は、好きじゃない……』
俺の元から走り去る東海林課長の後姿が何度も何度も蘇った。
「……っ」
すると、これでもかと胸の奥が締め付けられる。
『俺は女がいないからって男には用はねぇ!』
『それは俺も、だ……』
中原との会話を思い出す。
そうだ、俺はどうかしてたんだ。
拳を握り締め、シンクに叩きつける。
「……男を好きになるなんて、有り得ないだろ」
胸の痛みを蹴散らすように、俺は虚空に向かって言葉を吐き捨てていた。
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