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*** 月曜。 俺は品質管理課の仕事を終え、本社の人事部、郷渡部長の部屋を訪れていた。 「どうしたんだい、笹川君? 最終報告日までまだ一週間もあるじゃないか」 書斎机の向こうから郷渡部長が怪訝そうに顔を上げる。 「いえ、もう報告書ができあがったのでお届けに参りました」 俺が書類を手渡すと、軽くそれに目を通したあと部長がじろりと俺の顔を見上げた。 「で、端的に言うと、東海林課長はどうだったのかね?」 まっすぐに部長の目を見ながら、俺は何の迷いもなく答えた。 「彼は今度のプロジェクトには不適格です」 「……ほう」 郷渡部長の細い目が僅かに見開かれた。 「わかった。あとは報告書を読んで対処しておくよ。でもあと一週間、君は品質管理課に出勤しておいてくれよ?」 「はい、承知しています」 一礼して部長室を出ると、俺は塵一つない無機質な長い廊下を歩き始めた。 ……東海林課長は変わらない。変わろうとしない。 このままプロジェクトに参加させたらあの奇行で不祥事を起こして、俺まで巻き添え食って共倒れだ。 残り一週間、俺はいつも通り品質管理課に出勤し、そして急な辞令が出て異動する、という手筈になっている。 「これで、いいんだ」 自分自身に言い聞かせるように決意を声に出すと、本社の豪奢な玄関ロビーをあとにした。

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