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俺のその言葉に、目の前の課長の顔が一瞬泣きそうに歪められた。
「これ以上、自分を貶めないでください。お願いです、もっと、もっと、自分を大切にしてください……っ!」
自分の意思に反して肩が震え出した。俺は懇願するような声で伝えたい想いを言い終えると堪えきれずに嗚咽を漏らした。込み上げる後悔と伝わらないもどかしさと東海林課長への痛いくらいの愛しさが入り混じって、もう止まらなかった。
俺は両手で顔を覆った。ただただ零れる涙に翻弄されるまま、泣き続けた。
すると、俺の頭に何か温かいものが触れた。
「……?」
泣き濡れた顔をそっと上げると、東海林課長がおずおずと手を伸ばし、俺の頭に触れていた。そしてその手をゆっくりと滑らせ、今度は頬に添わせてくる。
「笹川君……、君は、僕のために泣いてくれているのか……」
課長は親指の腹で俺の涙を拭いながら、少し目を眇めている。
「そんな人、初めてだよ……」
「東海林、課長……?」
課長の指先が触れた頬が、熱い。
「笹川君……、僕は、気づいたんだ」
課長は瞳を揺らしながら言葉を探している。
「……突然解雇されたことよりも、君の言葉が嘘だったのかもしれないということの方に、よりショックを受けている自分自身に……。笹川君、僕は……」
課長が何かを探り当てたかのような視線を俺に向けた時だった。
俺の胸ポケットからバイブ音が鳴り響く。携帯電話が着信していた。
「……出なくて、いいのかい?」
課長が言葉を止めて、気遣った声をかけてくる。
俺は首を横に振った。
振動は暫くして止まったが、すぐにまた震え出す。
「何か急用かもしれないだろ?」
課長に促され、俺は手の甲で涙を拭いながらスマホを取り出し、課長に背を向け電話に出た。
「はい……」
『あ、やっと出た、笹川、俺だ、中原だ!』
「ああ、すまない、あとでかけ直していいか?」
どうせ合コンの誘いか何かだろう。
俺はすぐさま電話を切ろうとするが、中原の焦った大声が追いかけてくる。
『おい! 待て、切るな! いいか、よく聞け!』
苛立ちを噛み締めるように中原が声を低くする。
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