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『クーデターが起きた!』
「クーデター?」
俺は泣き疲れた頭でぼんやりと中原の言葉を繰り返した。
「一体、どこの国の話をしてるんだ……」
『うちだ! 三愛製薬だよ! 今日の臨時取締役会で社長が解任され、副社長が社長に就任することになったんだ!』
「副社長が……、社長に……?」
『ああ、しかもフランスのヒノメディック社と経営統合するとかで、どうやら副社長が周到に手を回してたようなんだ! 俺たち社長派はこれで終わりだ!』
クーデター
ヒノメディック
副社長
三愛製薬の二大派閥
工場を見学に来ていた外国人
様々な単語や光景が俺の頭の中で勢いよく回り出す。
――ああ、副社長直々の客だとかで、忙しいこちらとしても無下に扱うこともできなくてな。
いつかの製造部長の言葉が蘇る。
一体、いつから始まってたんだ……?
三愛製薬は、俺たちは、どうなるんだ……?
『いいから、おまえは今すぐ会社に戻ってこいっ!!』
中原が怒鳴って電話を切った。
「笹川君……?」
東海林課長が心配そうにこちらを窺っている。
「す、すみません、課長!」
俺は勢いよく頭を下げた。
「きゅ、急用ができたので、これで失礼します!」
踵を返し、混乱したままの頭でその場を走り出す。
しかし、頭の中を巡ったそれらの単語が一つに繋がった時には、俺の周りのすべてが音を立てて崩れ落ちたあとだった。
*
それからはあっという間の出来事だった。
突然の解任劇で三愛製薬のこれまでの経営陣は一掃され、副社長が社長として就任すると、社長派だった人事部長も更迭された。それに伴い、俺たち特命係は解散となり、各地へとちりぢりに左遷された――。
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