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「それなのに、会いたいなあ……」 俺はつい零れ出た願望に自嘲の笑みを漏らすと、短くなった煙草を口に咥えたまま、携帯灰皿を取り出すために胸元に手を差し入れた。 その時だった。 いつまでも雪を降らせ続ける厚い鈍色の雲の下、どこまでも白い雪が降り積もった広い駐車場を、大きな荷物を抱えた一つの黒い影がこちらに向かって近づいてくるのが見えた。 ギシッ、ギシッと雪を踏みしめながら、慣れない足取りで歩んできたその人物は少し息を切らせながら、俺の目の前で立ち止まる。 「どうして、ここに……」 俺は口元から煙草を離すと、信じられない光景に目を瞠った。 「笹川、君……」 恐る恐る俺の名を呼んだ東海林課長は紺色のダッフルコートを着込み、青色のマフラーを首元にぐるぐると巻きつけていた。ボトムは黒いコーデュロイのパンツだが、また裾の長さが足りていない。 「プ、プロジェクトの成功の目途が、ようやく立ったんだ」 課長は緊張し強張った表情で俺を見上げてそう言った。マフラーから覗く鼻先は赤く、顔の周りには白い息を纏っている。 「笹川君……、君が異動する前に、新しい人事部長に僕のことをプロジェクトに推薦してくれたんだってね?」 「え、あ……」 返答に詰まって目を伏せながら、手に持っていた煙草を携帯灰皿でもみ消す。 「君が推薦してくれたプロジェクトの責任者として、僕は絶対にこの仕事を成功させたかった。だから、君に会いに来るまでに随分と時間がかかってしまった……。き、君はもう、この地で僕のことなんか忘れてしまっていたかもしれないが……」 「そ、そんなわけないでしょう!」 俺は勢いよく顔を上げ、不安に翳りを帯びた課長の瞳を見据えた。 「俺はずっとあんたのことを想ってた。一時たりとも忘れたことなんかなかった」 俺の言葉に、課長の瞳が一瞬見開かれ、そして何かを閉じ込めるように伏せられた。 「君が言ってくれた言葉……。ぼ、僕には愛される価値があるって言葉……。あの言葉を思い出すことで、僕は色んなものを乗り越えることができた」 独り言のように呟くと、課長はごそごそとコートのポケットを探り、黒いガラケーを取り出した。 「この半年、イワオさんとは会っていないし、連絡もとっていない。それから、あのペットボトルも捨ててきたから」 課長は言いながら、ガラケーを横に開いて両手で持った。そして一瞬鋭い苦痛を感じたかのように眉根を寄せる。 「え、ちょ、課長、ま、待って!」 俺の制止も聞かず、課長は腕に力を込めた。

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