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瞬間、『バキッ』と大きな音がして、それは機能を無くす。
課長の手の中で、あんなに大切にされていた黒いガラケーが真っ二つにへし折られていた。
課長は肩から緊張を解きながら大きな息を吐くと、二つに折れた携帯をそれぞれの手に持ったまま俺の顔を見上げた。
「いいんすか……? 課長……」
その顔を見つめ返すと、俺の顔を写した黒く透き通った瞳に、みるみる涙が込み上げてくる。
そして、頷くように一度、瞬きをした。
すべてを洗い流すかのような透明な涙が、白い頬に零れ落ちる。
もう拭ってやることはできないと思っていたその涙を、俺は指の腹で優しく拭った。
すると東海林課長はまっすぐに俺の目を見つめたまま、ふっと柔らかな笑みを浮かべた。
「笹川君」
ゆっくりと、唇が動く。
「僕は、君が好きだ」
「……っ」
俺は腕を伸ばし、課長の身体を勢いよく抱き締めた。
「俺も課長が好きです」
込み上げる愛しさと甘い痛みとで胸が詰まる。目頭が熱い。
「大好きです……っ!」
「うん……、うんっ」
俺の言葉に課長は嗚咽を漏らしながら頷き返す。
愛しい人の身体は冷え切っていた。雪の降り続ける軒先で、俺はその身体を温めるように、いつまでもいつまでも、抱き締め続けた。
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