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ホームには夕暮れが迫っていた。
アナウンスが流れ、あと数分で東海林課長の乗る新幹線がやってくることが知らされる。
俺の隣で課長が洟を啜り上げた。
「大丈夫っすか? 寒いんでしょ? 何か温かい飲み物でも買ってきましょうか?」
雪は止んでいるが、日が傾き、冷え込みが増していた。
「いや、大丈夫だ、ありがとう。そういえば昨日、カイロを買う夢を見たんだ」
課長が何故か得意げに俺の顔を見上げた。
「十個入りで税込九十八円!」
「そ、それは激安っすね……」
戸惑いながらも思わず相槌を打つ。
この人は俺の腕の中でなんて夢を見てたんだ……。
「だけど笹川君、その十個のカイロはひとつの袋に入っていて、一旦開けてしまうと十個すべてが温かくなってしまう仕様だったんだ! 僕はそんなに必要ないから困ってしまって……」
課長は夢の中の状況を思い出したのか、次第に俯いていく。
「課長」
呼びかけると、眉根を寄せた東海林課長が再び顔を上げた。俺はその顔を真っ直ぐに見つめる。
「そんな時は俺を呼んでください。俺、身体でかいから、課長の使い切れないカイロを全部背中に貼って使っちゃいますよ」
俺は小さく笑うと、課長の解けかけたマフラーを肩にかけ直した。
「課長、もうひとりで何もかも背負う必要はないんすよ? これからは俺がいます。俺に、頼ってください」
「笹川君……」
目の前の課長の瞳が途端に潤みだす。
「俺、こんなにも誰かを幸せにしたいと思ったのは、初めてなんです」
その瞳に安心させるように微笑みかけた。すると課長は目にいっぱいの涙を溜めたまま、コクリと大きく頷く。
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