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線路の向こうから白い車体が近づいてきた。
鼻先の長い新幹線がホームに滑り込んでくると、並んで待っていた他の乗客たちが浮足立った。扉が開き、降車する人々が吐き出され、今度は乗客が吸い込まれていく。あっという間にホームには俺たち以外の乗客はいなくなった。
すると課長が突然俺の目の前に回り込んできた。
「笹川君」
「?」
「僕は……、君に出会えて、君を好きになって、本当によかった。……ありがとう」
ひとつひとつの言葉を丁寧に、紡ぎ出すように言ったあと、課長はふわりと背伸びをした。
「!」
目を瞠った俺の唇に温かくて柔らかな感触が触れた次の瞬間には、課長は身を翻してタタッと新幹線に乗り込んでしまった。同時に扉が閉まる。
「東海林課長!」
扉のガラス窓の傍に立った課長が今にも泣き出しそうに下唇を噛み締めながらも、無理やり笑顔を作った。心臓がギュッと甘く切なく絞られる。
ゆっくりと車体が動き出す。
俺も足を踏み出す。
「俺、ずっとずっと、」
聞こえないとわかっていても言葉が口を衝いて出てくる。必死に笑みを保とうとする課長に並んで走り出す。
「これからもずっと、俺は課長のことを――」
駆けながら叫ぶ。けれどあっと言う間に課長の佇んでいた窓辺は残像となり、最後尾の車体も遠く離れていった。
「はあ、はあ……」
俺は息を切らしながらホームの端に立った。
この言葉の続きは、今度会いに行った時に言うか……。
東海林課長の想いと温もりを閉じ込めるように指先で唇に触れてみる。
いつも雪雲に覆われていた空が珍しく晴れていて、見上げた俺に小さな星たちがチカチカと、こそばゆいような瞬きを返した。
***終わり
最後までお読みくださりありがとうございました!
明日より、課長視点の続編的な番外編が続きます☆
よろしければお付き合いください!
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