89 / 98

秋5

*** 「くしゅっ」 僕は小さなくしゃみをしながら、目を覚ました。すると、隣に眠っていた笹川君が目元を擦りながら、布団を肩に掛けてくれる。 「っっくしゅ!」 しかし、今度は盛大なくしゃみが漏れてしまうと、笹川君がガバリと身体を起こした。 「優さん!? 大丈夫っすか?」 目を瞬かせながら、僕の顔を覗き込む。 「ん……、大丈夫だよ? っくしゅ」 僕も起き上がろうとするが、笹川君に肩を押されてベッドに戻されてしまう。 「ああ、くそっ、俺が昨日キッチンで無理させたから……」 笹川君は頭を抱えて、自己嫌悪に陥っている。 「そんなことないよ」 「そんなこと、あります!」 眉根を寄せた笹川君が僕の額に大きな手を当てる。 「ほら、少し、熱くないっすか?」 そう言われると、少しだけ身体が怠い気がする。 「でも、大したことないよ。それより……」 言いながら起き上がろうとした僕の身体は、再び笹川君に押し戻されてしまった。 「優さんの大丈夫は信用なりませんからね! 明日から月曜で仕事ですし、今日はゆっくり寝て過ごしましょう?」 「それはダメだ!」 僕は笹川君の腕を振り切って、今度こそ身体を起こす。 「ちょ、どうしたんすか! 酷くなったらどうするんすか!」 厳しい声で叱りつける笹川君に僕はしゅんと項垂れた。 「……だって、今日は笹川君をエリジウムに連れて行こうと思っていたんだ」 「エリジウム? それって、優さんがいつもスーツ買うお店っすか? それなら今日じゃなくてもいいじゃないっすか?」 「いや、オーダーメイドだから、君がいないと採寸できないし……」 「え、俺の?」 笹川君がキョトンとした顔つきになった。

ともだちにシェアしよう!