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秋7

「優さん、やっぱり今日は出かけるのはよして、家で優さんがやりたかったことをやりましょう? エリジウムには今度来たときに連れてってください」 笹川君は優しく言って、指先で僕の涙を拭ってくれる。 「僕がやりたかったこと……って?」 首を傾げた僕に、笹川君は柔らかな笑みを返した。 「辛いときは好きな人に甘えたいんでしょう?」 言いながら、コツンと額を合わせられる。 僕はさらに目頭が熱くなって、涙がポロポロと溢れた。 「……うん」 洟を啜り上げながら頷くと、笹川君は僕を安心させるように大きな手のひらで頬を撫でてくれる。 「俺も、優さんに甘えて欲しいんです」 笹川君は僕の額に唇を押し当てたあと、僕から離れてベッドから抜け出した。 「じゃ、軽く何か食べて、薬飲みましょう。おかゆでいいすか? 食べれます?」 「うん……、ありがとう」 僕が涙で滲んだ瞳のまま微笑むと、笹川君の頬が途端に朱色に染まった。 「いいから、優さんは横になっててください」 そして即座に視線を逸らし、寝室を出て行った。      * 笹川君の作ってくれた卵のおかゆを食べて薬を飲むと、僕は再びベッドに入った。 隣の笹川君が頭を抱き寄せてくれる。笹川君の手のひらは冷たくて気持ちがいい。 「こんなに、甘えていいのかな……」 僕が笹川君の胸元から顔を上げて、申し訳なく囁くと、「いいんですよ」と小さく笑われた。 「ああ、優さんは覚えてないんすよね、俺、優さんが風邪ひいた時、前にもこうして……」 「え……?」 「い、いや、何でもないっす、さあ、眠ってください」 笹川君は慌てて僕の目元を手のひらで覆う。 全身に感じる笹川君の体温と薬のせいか、すぐにトロンと目蓋が重くなった。胸の奥を切ない甘さと限りない安心感に満たされる。 笹川君……、僕は君が、とても好きだよ……。 僕はこの言葉をきちんと声にして伝えられたのか、夢の中で呟いただけなのか、もう覚えていない。 だけど、僕の頭を抱き寄せてくれていた君の腕の感触だけは、今でも覚えているよ。 ***秋 終わり

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