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僕は寒風の吹き荒ぶ新幹線のホームに降り立った。 僕が住んでいる街とは違い、笹川君が住むこの街は三月が近づこうとしているこの時期でも、いまだ雪に覆われている。僕は腕に抱えていたダッフルコートをスーツの上に着込んだ。 駅を出て、タクシーを拾う。すっかり夜の帳に覆われた街並みは、外灯の灯りだけがぼんやりと浮かんでいた。 笹川君……、怒るだろうか……。 明るすぎる対向車のヘッドライトに目を眇めながら内心そう呟くと、不安と焦燥に胸が絞られた。 でも、どうしても、僕は……。 ぐっと下唇を噛み締め、ここまで抱えてきた想いに決意を新たにする。 タクシーを降りてレザーのビジネスバッグを抱え直すと、僕は笹川君のアパートへの通い慣れた道を歩き始めた。踏み締めた雪がキシキシと靴底で音を立てた。 「…………」 笹川君の部屋の前まで辿り着くと、呼び鈴を押そうとした指が微かに震えていることに気づいた。僕はギュッと目を瞑って、勢いを付けてチャイムを鳴らした。 『ピンポーン』 しかし、いくら待っても笹川君が出てくる気配もなければ返事もない。 僕は立て続けにボタンを押す。 『ピンポンピンポンピンポンポン』 「はーい」 しばらくして、少し不機嫌そうな笹川君の声が内から聞こえた。僕の心臓は破裂せんばかりに鼓動を強める。 「何の用っすか?」 扉から怪訝そうな顔を出した笹川君だったが、僕の姿を認めると途端に目を瞠った。 「ど、どうして、優さんが、ここに……!?」 「ご、ごめん、来ちゃった……」 僕は上目遣いで恐る恐る笹川君の顔を覗き込んだ。

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