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冬4

*** 「何言い出すんですか! 何があったんすか!」 慌てて駆け戻ってきた笹川君の顔を、肩を戦慄かせながら見上げた。 目頭が熱くなって、視界がぼやける。 「僕、もう、君と離れていることに、耐えられないんだよっ!」 そして、僕は悲鳴のような声音でそう叫んでいた。込み上げてきた涙は目の縁ギリギリにまで溢れていて、ほんのちょっとでも触れられれば零れてしまいそうだった。 「え……」 戸惑いの表情を見せた笹川君に、僕はなおも続ける。 「気付くと僕は、君に会える日を指折り数えてるんだ。君に会えることだけを毎日心待ちにして……。だから仕事にも身が入らないし、ミスもした……。それに毎朝目覚めたとき、隣に君がいないことが……っ、ベッドに僕しかいないことが、すごく、すごく、……すごく寂しくって………ぐすっ」 震える声を堪えようと、必死に鼻を啜り上げる。 「だ、だから、ぐすっ、仕事辞めて、この街に来たいんだ。僕、どこかこの近所の薬局でパートの薬剤師をやるよ。だから……、僕をここに置いて欲しい……!」 伝えたいことを言い終えると、僕は涙で滲んだ世界の向こうにいる笹川君の顔を、懇願するように見つめた。 笹川君はビジネスバッグを床に置くと、僕の頬を両手で挟み込んだ。そして真剣な眼差しで僕の顔を見下ろす。 「だめです」 笹川君の唇がたった一言、そう告げた。 僕は絶望に目を見開くと、我慢していた涙がボロボロと溢れ出した。 「ど、どうして……」 打ちひしがれた声で縋るように訊ねる。力の入らない全身は今にも足元からくずおれそうだった。そんな僕を笹川君はまっすぐに見つめ返してくる。 「優さんはもう部長なんですよ? それだけの成果を上げてるし、優さんがいないと回らない仕事もたくさんあると思います。それに三愛製薬には優さんを必要としている人間が大勢いるんです」 「で、でも僕は、君がいなきゃ……!」 抗議のような声を上げる。眇めた瞳からまた涙が流れ落ちた。 「だから、伝えたいことがあるってさっき言ったでしょ? 優さん、また俺の話聞いてませんでしたね?」 笹川君はそう言って、ふいに目元を緩めると、僕の頬の涙を親指の腹で拭った。

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