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冬5

「え?」 「実は俺、四月の異動で本社に戻れることになったんです」 「え…………、ええええっ!!」 笹川君の言葉が脳まで届くのに時間がかかった。僕は一瞬の間を置いて大声を上げる。 「ふふっ、びっくりしました? あ、もちろん営業部にですけど。一か八かで異動願を出してたら、営業成績が思ったよりよかったらしくて、それが通ったんです」 その知らせは真っ暗だった世界に眩い光が差し込んでくるかのようだった。 「え、じゃあ……」 僕は自分の頬に血色が戻ってくるのを感じた。 「はい。また、同じ街で暮らせるんですよ。だから……、その……」 目の前の笹川君が何故か恥ずかしげに瞳を揺らしている。 僕はそんな笹川君の両腕を掴んで、見上げた顔をグイッと寄せた。 「だったら、一緒に暮らそう!」 「っ!」 そう言った僕に笹川君は驚いた顔で言葉を詰まらせた。そして、大きく嘆息すると、「もう……優さん、俺が今言おうとしたのに……」と唇を尖らせたが、すぐに僕の身体をまた腕の中に引き込んだ。 「笹川君……、僕、すごく嬉しいよ」 笹川君の首筋に顔を埋めて、満ち足りた気持ちで囁く。 「俺もです。四月が待ち切れないっす……」 笹川君の唇がゆっくりと近づいてくる。僕は顔を上げて、その優しい感触を受け入れた。 「こうして、突然訪ねて来てくれたことも、本当はすごく嬉しいんです」 笹川君は唇を離して、腕の中の僕を見下ろす。 「優さんは、自分がすごく変わったことに気づいていますか?」 「え?」 「僕が出会ったころの優さんは、ただ待つだけ、振り回されるだけの人だった。でも今は、良いか悪いかは別として、こうして行動を起こそうとする」 笹川君は僕の前髪を梳きながら、微笑んだ。 「俺は今の優さんをもっともっと好きになりました」 頬に熱が集まるのを感じた。 「それは……」 それは、君のおかげだよ。 君とずっとずっと一緒にいたいから、僕は変われるんだよ。 そう言っても、きっと笹川君は僕が頑張ったからだ、と言ってくれるのだろう。 「ありがとう、笹川君」

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