4 / 9

第4話

ズルズルと引きずられるように連れてこられたのは、大学から程近いカラオケだった。 「…?」 何でカラオケなのか見当もつかない。 コーイチは受付を済ませてさっさと部屋に入る。 僕はと言えば逃げることもできたのだけど、何が起こるのか不思議で好奇心の方が優っていた。 ドアを閉じてコーイチは取り敢えず飲み物をオーダーしている。 「何にする?」 「…烏龍茶」 コーイチはアルコールを頼んでいたが僕は飲めない。 お子様かよ、とコーイチが呟いてた。 カラオケなんて高校の頃以来だ。 「で、何でここに連れてきたの」 僕は憮然(ぶぜん)としながらもコーイチに聞く。 その間、コーイチは自分の鞄をゴソゴソ探っていた。 「あったあった」 僕の質問に答えず、鞄の中から取り出したのは。 ガラス鉢と、すり棒。 益々、意味が分からない。 ポケットからさっきの薬を取り出しフィルムのままガラス鉢に入れる。 カラカラと音がした。 そしてその薬をすり棒で潰していく。 察しの悪い僕でも、彼がやろうとしていることに気づいた。 いや普通の人は分からないかもしれない。 コーイチが言った「別の角度からクスリに詳しい」理由も、精神病棟に入院してた僕にわざわざ話しかけてきた理由も分かった。 「…お前、これが目的だった訳か」 砕いた薬をさらに細かくして粉にする。 その間にストローを準備している。 「やったこと、ある?それとも今日初体験?」 砕いた薬をフィルムから出して粉をガラス鉢に入れた。 コーイチはストローを一つ、僕に渡す。 向精神薬を粉にして鼻から吸引する事で気分が高揚したりするのだ。 麻薬まではいかないが合法ドラックのような… クスリ遊びだ。 「僕は普通に処方されてるだけだ。こんな事の為に薬を貰ってるんじゃない」 呆れてモノが言えない。 時間の無駄だったと、僕はコーイチが渡そうとしたストローを跳ね除けて部屋を出ようとした。 「まあそう言うなって。貰ったお礼」 僕は腕を掴まれたので、払おうとした時。 コーイチの表情が一変していた。 怒っているわけでも不機嫌なわけでもない… 兎に角冷たい、氷のような表情だ。 講義中から今まで見せていたような、ヘラヘラした顔ではなく。 得体の知れない、恐怖。 まるで爬虫類の表情だ。 僕はまるで蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直していた。 そんな僕からコーイチは目を逸らして床に落ちたストローを拾い、それを僕に渡す。 「ほら」 フッと顔が歪み、爬虫類がヒトに戻っていた。 粉末にした薬を恐る恐る鼻から吸って数十分。 どんな作用が出てくるのか不安でたまらない。 一方のコーイチは悠然とアルコールを飲んでいた。 「そういえば…、誰から僕のこと聞いたの」 「あー、誰ってわけでもねえけどお節介な奴は何処にでもいるからな」 「名前までバレてるんだ…」 「気にすんな」 コーイチが僕の頭をぽん、と叩いた。 その瞬間。 目の前のテーブルがグニャリ、と円を描いた。 「…!」 慌てた僕の様子を見て、コーイチは歪んだ笑いを浮かべる。 「始まったぜ、せいぜい楽しんで」

ともだちにシェアしよう!