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フェロモン

「悠衣、さっき唇を合わせた時に気づいたのですが……」 「うん」 「匂い、強くなっています。そろそろかもしれないので、十分気を付けて。いつでも僕がいるというわけでは、ないのですから」 「分かった」  眉根を寄せ朝食を運んでくる柊に、コクリと悠衣は頷く。  それを見て、柊は悠衣の横に来て顎に手を乗せ無理やり視線を合わせた。 「本当に、分かっているのですか? 貴方はいつもボーっとしているので、僕も気が気じゃないんですよ?」 「大丈夫だよ、柊兄。僕がしっかりしていなくても、周りがしっかりしてるから」 「そうですが……」  首筋に顔を近づけた柊は、ペロリと舌を出した。 「貴方は希少なオメガ。ベータが多いといっても、アルファがいないというわけではないのですよ?」 「柊兄のような?」 「そうです。教師にも、アルファはいるのですから」  首筋をペロリと舐めた柊は、どんどん上へあがっていき、顎と耳の中間の少し下辺りを甘く食んだ。  微かに快感に歪められた顔を見て、ポンっと頭に手を乗せる。 「悠衣自身、気を付けてくださいね?」 「……ん、分かった」  頷く悠衣を見て、柊は対面の椅子に腰を落とした。  男女以外の第二の性である、アルファ、ベータ、オメガ。  アルファは社会的地位の高い、ずば抜けた能力を持っている人が多く、ベータは平凡で一番数が多い、そしてオメガはその中で最も数が少なく、能力は低いものの男でも生殖機能を携えている。  柊はアルファ、そして悠衣はオメガ。  女の数が減少傾向にあり、街中でも滅多に目にしなくなった昨今、オメガは子を産むことができるとして大切に扱われているのだ。  だがオメガの思春期から出てくるフェロモンは、アルファを狂わせる。  狂ったアルファがオメガを襲う事件が多発している中、世間はそういう事件を事前に防ごうとオメガとアルファは好きあっていない場合、できるだけ離すようにされていた。  だから悠衣は基本的に、周りのベータに守られながら生活している。  いつもボーっとしている悠衣は、母性(父性?)をくすぐるのだ。  だがいつでも誰かと一緒にいるというわけではなく、ふとした瞬間に一人になる場合もあるだろう。  普通は中学の時に訪れるはずの発情期がまだ来ていない悠衣は、今でさえ人を魅惑しているのに、発情期が来てさらに妖艶さが加わるとどうなるのか……。  もしかしたら、ベータまで虜にしてしまうかもしれないと、柊は心配でならないのだ。 「では、いただきます」 「いただきます」  手を合わせ、二人は柊の用意した朝食を黙々と食べた。

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