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カップルみたいな兄弟
「おはよう、悠衣!」
「うん、おはよう」
校門を抜け校舎内に入ったところで、悠衣の友達の玖珂海が悠衣らに近寄ってきた。
「先生も、おはようございます!」
「はい、おはようございます」
柊は悠衣の学校で数学の先生をしていた。
なので悠衣と柊は毎日一緒に登校しており、そして分かれ道となる階段の踊り場に差し掛かると、互いにギュッと抱きしめ合い、別れる。
「じゃあ悠衣、今日も頑張ってくださいね」
「うん、柊兄もね」
その様子を驚き見る人はもういなく、チラ見されるだけで、もうそれが日常と化していた。
「玖珂くんも、悠衣の事よろしくお願いします」
「任せてください!」
腕に力こぶを作って手で叩き頷く海を見て、「では」と柊も職員室に向かっていった。
悠衣と海も教室がある二階へ向かうため、階段を上がる。
「本当、いつ見てもカップルみたいだな、お前ら」
からかうように海が手すりに手を置きながらそう言った。
「それはないでしょ。僕と柊兄は兄弟なんだよ?」
「あんなに仲のいい兄弟も滅多にいないけどな!」
一段飛ばしで、海が階段を駆け上がった。
確かに、柊は通常より過保護である。
それは悠衣がオメガであること抜きに、いつも悠衣の心配をしていた。
帰りが遅くなるとすぐに連絡が来るし、一日の出来事について話させるし、この前なんか体育でちょっと捻ったくらいで授業中にも関わらずすぐに保健室に駆け付けたくらいだ。
そんな柊のブラコンは生徒、教師に知れ渡っており、少し残念なアルファとしてその名を馳せていた。
「兄弟では番えない、か」
急に立ち止まった海は、ポツリと呟く。
「じゃあ、兄弟じゃなかったら、悠衣は先生と番っていたのか?」
悠衣より数段上で、海は悠衣に問いかけた。
いつになく真剣な顔、悠衣らを怪訝に見る生徒らが、悠衣らを追い越していく。
「そんなの、分かんないよ。僕はまだ、番えないし」
アルファとオメガは、番という生涯を共にするパートナーとして結ばれることができる。
だがそれは兄弟ではできず、オメガのフェロモンは兄弟ならばアルファには効かないのだ。
だから柊と悠衣は番になることは無いし、例え発情期が起きたとしても、悠衣のフェロモンは柊には効かない。
けれどまだ発情期も訪れていない悠衣にとっては、番など未知の領域、まだそんな先の事、全然想像がつかなかった。
「そっか……」
悠衣の言葉を聞き前を向いた海は、「行こうぜ」と再び足を進めた。
海に追いつくため駆け足気味になった悠衣は、海の横に並ぶ。
もう教室は、目の前だった。
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