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手伝い

「悪い、篠宮。ちょっと手伝ってくれないか?」  そう言われたのは、地理の授業が終わった後。  一番前の席に座っていた悠衣に、教師である荒木が声掛けた。 「いいです、けど……」  荒木はアルファである。  オメガとアルファはなるべく二人きりになってはいけない。  それは学生なら当たり前の事であり、社会人になったとしても学生の時よりは自己責任となるが、やはり二人きりは避けられる。  なので戸惑っていた悠衣に、「ああ、そういえばそうだったな」と荒木は海を呼んだ。 「玖珂、ちょっといいか?」 「はい、何ですかー?」 「ちょっと篠宮とこれ運ぶの手伝って欲しいんだけど」 「分かりました!」  荒木が指し示したノートを見て、二つ返事で海は了承した。  近寄ってきた海に、「ごめんね、巻き込んで」と耳打ちする、 「いいよ、これくらい」と快く頷いてくれた海がノートを半分に分け、よいしょと手に持った。  悠衣もノートを抱え、歩き出す。  職員室に入ってすぐ、右手にある荒木の机の上にノートを置くと、「ありがとな」と言われたので「いいえ」と返し、職員室から立ち去ろうとする。  けれどちょうど職員室に入ってきた柊に、腕を掴まれた。 「どうしたのですか、悠衣。ここまで来るなんて、珍しいですね」 「荒木先生に、ちょっとノート運ぶの手伝うように言われたから」 「そうですか。あ、ちょうどお昼なので、一緒に行きましょう」  荒木の名前を出すと一瞬目が鋭くなった柊は、すぐ隣にいる海をチラリと見て、眼光を和らげた。  そして手に持っていた荷物を自分の机、荒木の斜め向かいに席に置き弁当を二つ持ってくる。  一つは柊の、そしてもう一つは悠衣のである。 「行きましょうか」 「うん。じゃあ海、またあとで」 「おう、またな!」  柊と悠衣は、数学準備室で毎日お昼を一緒に食べていた。  他の数学の先生はその時間気を遣ってか出ていくので、実質二人きりである。  前に海が「生徒と一緒に食べて、いいんですか?」と聞いたことがあったが、「いいんです、お昼に充電しないと持ちませんし」と変な事を言っていた。  まあ今まで注意されたこともないのでいいのだろう。  海はいつも通りバスケ部の皆と食べに、教室に弁当を取りに行く。  悠衣と柊は教科棟の二階にある数学準備室に向かった。

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