13 / 36
運命
「さようなら」
自分の感情に向けた言葉、悠衣に背中を向けた柊の手を、ふいに悠衣は掴んだ。
「自己完結、しないでよ」
起きたばかりのトロンとした瞳を覗かせて、悠衣は起き上がった。
『さよなら』の言葉から、良からぬことを柊が考えていると思ったのだろう。
その瞳は、不安に揺れていた。
「僕だって、柊兄を愛しているよ」
「……っつ!」
いきなり『愛』を囁かれ、またさっきの言葉が聞かれていたのだということに恥ずかしさを覚えた柊は、その頬を赤に染めた。
動揺しながらも、「いつから、起きて……」と、呆然と問いかける。
「柊兄が僕の事を、『愛してる』って言ってくれた時から」
どうやら、少しの間寝たふりをしていた悠衣は、真っ直ぐ柊を見上げる。
「僕も、柊兄を愛してるよ? それじゃダメなの?」
「何、言って……」
「だって、柊兄が『さよなら』なんて、言うから……」
悠衣は、好きだから、愛しているから、だからどうか離れないで、そう言いたいらしかった。
だが果たして、その『愛』は自分の抱える『愛』と同じなのか?
――いや、違う。
自問自答した柊は、自分の中で答えを導く。
勘違いしているだけだ、ずっと恋人のような行為をしてきたから、そのしてきた相手を『好き』だ、って。
だから掴んでいた手を、そっと離すために手を伸ばした。
「わっ」
でも両手でめいいっぱい引っ張ってきた悠衣の上に雪崩れ込んだ柊は、そのまま頬を両手で挟まれ、キスされた。
拙い動きで舌を伸ばされ、柊の動きを誘う。
けれど反応を返さない柊に、泣きそうになりながらも悠衣はその上に乗っかった。
そしてズボンのファスナーを、下ろし始める。
「ゆ、悠衣!? 何、を……」
「だって! ……もう無理だよ、柊兄」
「え?」
「もう、誤魔化せない」
様子のおかしな悠衣に戸惑いながら、柊はその身を起こした。
そして真正面から、悠衣と向かい合う。
「ねえ……柊兄は、『運命』って、信じてる?」
「都市伝説ですよね。アルファとオメガが、本能的に惹かれ合うという」
「うん……それって、僕らにも存在すると思う?」
「……どうでしょう。いたとしても出会うのは稀、出会ったらその時は――大切に、何よりも大切に、しなくてはいけませんね」
「……そっか」
どうか悠衣が、その『奇跡』を起こせますように。
そしてどうか、幸せに愛されますように。
そう祈りながら、柊は悠衣に微笑みかけた。
「……え? ……」
ただひたすら、悠衣のこの先の幸福を願っていた柊は、次の瞬間悠衣に優しく抱きしめられ、驚きに声を上げる。
「どうしたのです、悠衣?」
急に甘えられて、戸惑いながらも柊はその背に手を回した。
ともだちにシェアしよう!