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 悠衣が走ってたどり着いた先は、家の近くにある公園だった。  未だ、悠衣は希望を捨てきれていなかった。  この場所は泣いた悠衣が良く来て、そんな悠衣を柊が宥めてくれていた場所だ。  その場所で懐かしさを感じる暇もなくブランコに腰を掛け、声を出さぬよう、数少ない通行人に顔を見られぬよう悠衣は膝を抱える。  その脳裏にあるのは、初めて体を交わしたあの日の出来事だった。  悠衣は何も、最初から柊の事が恋愛感情で好きだと分かったわけではない。  兄弟では番えない、それが頭に根付いていた悠衣は、柊と番う事など考えていなかった。  ただ、あの初めての発情期の日兄弟であるはずなのに柊に発情期が効いていて、部屋に入ってくる良い匂いをしている柊と過ごして、『運命』だったのだと分かって。  感情が溢れだしたかと思った。  苦しかった、『好き』の想いが強すぎて。  幼い時より触れ合わせた唇が、兄弟を超えた行為が、徐々に悠衣に『好き』を募らせていっていた。  それは柊も、きっと同じで。  悠衣に発情期が訪れた日、あの日から変わったのだ。  互いの感情が『好き』だと気づいて、説得されないように、何も言わずに柊は出て行った。 「普通の兄弟って……何?」  涙声になりながら、悠衣は呟いた。  先程聞いた柊の言葉が脳内で再生され、もうあの手が自分のものではないのだと思うとまた落ち込んで、腕に付けていたおでこをそっと上げて空を伺った。  明るかったはずの空はオレンジ色になりかけて、それがあの日、手紙を読んで泣いたあの日が思い起こされて、悠衣は完全に顔を上げた。 「悠衣、か?」  と、そんな悠衣に声が掛けられビクリとしたままそちらを向くと、そこには海の姿があった。  一瞬柊が来てくれたのかと思い勢いよく振り返った悠衣に、その顔もあって、「何があった?」と真剣な面持ちになった海は隣のブランコに腰を下ろす。 「先生、いたのか?」 「うん……恋人連れて……帰って来てた」 「恋人!?」  海も、柊が恋人を連れてくることを予測していなかったらしい。  声を張り上げ、それから悠衣の顔を見てそれが真実であると確認して、「そうか」とだけ呟いた。 「あの頃……傍から見たら、お前ら以上に幸せそうな奴もいなかった。互いに互いを想い会っている、理想のカップルだったよ。例えお前らがそれを、意識していなくてもな」 「……うん」  幸せな時間は、いつしか終わりが来てしまう。  永遠に続くと思っていた時間にもこうして、終わりが来た。  けれどまた再会した。  つまり、絆は……失われては、いないのだ。

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