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前向きに

「運命だって、思ったんだろ? 兄弟でも好きだって。先生がお前を好きな感情は本物だった。その想いはまだ、先生の中できっとある。なあ……お前は、どうしたいんだ? 恋人がいたから、諦めるのか? それとも、恋人がいても諦められないか。どっちだ?」 「そんなの……諦められないに、決まってるよ。何年、一緒にいたと思ってるの」  好きを自覚する前から、きっと好きだったのだ。  いつから好きだとかは分からない、けれど生まれた時から、柊は悠衣と共にあった。  積もりに積もったこの想いを、自覚してからの五年間を、捨てられるはずもないのだ。 「なら、やる事は決まってるだろ?」 「……そうだね」  しっかりと頷いた後、悠衣は立ち上がった。  涙を拭って、上から海を見下ろす。 「柊兄を取り返す。取り返せなかったとしても……気持ちの、整理を付ける」 「ああ、頑張れ!」 「うん!」  一人では落ち込むばかりだった心が、海に吐露したことにより整理が付けられ、前向きへと転換された。  このままでは前に進めない。  ぶつからなきゃ、互いの気持ちが昇華できない。  だから涙を拭って、前を見て。  それから上を向いて。  これからはまた、毎日会える事になるだろう柊に思いを馳せる。  会えないわけではない、なら希望はある。  そう信じて、悠衣は海に「ありがとう」と笑顔を向けた。  その笑顔に安心した海は、「おう!」と笑って立ち上がる。 「ごめんね。久しぶりに会ったのに、こんな所見せちゃって……」 「いいよ、友達だろ? それに俺は昔からお前の世話係だって認識されてたんだ。また何かあったら言ってくれ、相談くらい乗るからさ」 「うん。また、言うかも」  苦笑しながら、「送る」という言葉に甘えて、二人で悠衣の家の玄関まで向かった。  そこで別れて、それから既に帰ってきていた母親に「柊の恋人さんが、暫く泊まる事になるらしいわ」と悠衣の顔色を伺いながら言われても、平静を装えた。  そしてその日から、地獄の日々は始まったのだ。

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