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そんななら部屋出れば?と言われてそれも有りか!と思ったけど、手取り20万とかでどんなところに住めてどんな生活になるだろう。今より酷くなったらどうしよう。 「ほんと終わってんな」 「将来は有望だって言われてるけど、その将来が来る前に俺が消えるか過労死するか孤独死するかのどれかだと思う」 「はあ?消えるって何?」 「俺、もともと体重58キロだったの」 「それで?」 「それが入社して2ヶ月半で7キロ減った。このペースでいけば2年後には俺は消えると思う」 「ははっ、何真面目な顔して言ってんだよ。消える前に衰弱死だろ」 そんな怖いこと言わないでぇえ!と俺がまた泣き崩れた。そっか、痩せすぎたら衰弱死の可能性もあるってこと?どの死に方もやだなあ……。 「お前身長は?」 「170」 「で、51キロ?」 「うん」 「ちゃんと食ってんの?」 「食べる暇があるなら寝たいの!一人暮らしだから全部自分で用意しなきゃだし、買うのもめんどくさいし食べてる時間寝てたいし」 だから昼に食堂で食べる定食と、そこでついでに買うおにぎりやパンで食いつないでるのが今の俺。 「俺、飼い主間違えた」 「?」 「俺みたいなの社畜っていうんでしょ。それなら俺、飼い主間違えた」 おにーさんが働いてるようなところに行きたかった。いくら将来有望でもこんなのはしんどい。それでも働くけど、俺の将来はどこかの支社の偉いさんじゃなくて過労死した青年の方がイメージしやすい。 「へえ、ならお前俺に飼われてみる?」 「へっ?」 「1日3食、休みの日はおやつ付き。どう?」 「………ほんとに?」 「は?」 「ほんとに1日3食?レトルトじゃない?インスタントじゃない?」 「俺が自炊派だから大体手作りだな」 「おやつも?」 「おやつは簡単なのしか作れないから休みの日は買いに行くか。もちろん洗濯も掃除も俺な」 「え!?」 「ペットなんだからなんもしなくていい」 え、なにその好条件。 1日3食手作りのご飯に休みの日はおやつ付き。 洗濯も掃除もしなくていい。 「その代わり、俺が好きな時に好きなように可愛がるけど」 「……具体的には?」 「俺、お前くらい華奢なの好きだよ。その体を好きにさせてくれればいいだけ。まあ無茶はしない」 なるほど。体か。 「え!?そんなものでいいの!?」 「いいよ!好きにして?俺の体くらいいくらでも!あ、でも刺青とかはやだ!」 「お前、なにされるか分かってる?」 「この年だしそのくらい知ってるよ。俺のお尻におにーさんのおちんち「黙れ」ぶっ」 聞いたのそっちじゃん! 手拭き投げてくることないじゃん! 「ほんとにそんなことでいいの?」 「は?お前正気?」 「うん、嘘なの?」 だって飼うってことはおにーさんちに住むんでしょ?なら家に帰っても1人じゃないし、帰ったらあったかいご飯があって、人がいて、洗濯だってしてもらえる。その分体で払うって別に、うんいい。 まあ俺は男だし減るもんじゃないし、なんならおにーさんの方が正気? 「おにーさん、男を飼いたい人なの?」 「いいや?ただの気まぐれ。言っとくけど人権は認めないから」 うん? 俺飼われたとしても人、だよね?あれ、違う?? ちょっと待って、えーと、そうだ。 「他に条件、は?」 「お前にはないの?」 「1日3食、おやつ付き。あったかい布団と人肌の提供。あと会話。シリ以外とお話ししたい」 「条件少なくね?」 「あ!もう1個!大事なこと忘れてた!」 「なに?」 「ゴムはつけてね」 「ぶぶっ」 「おにーさん汚い」 おにーさんはすました顔してよく噴き出す人らしい。 今はタイミング悪くコーヒーを飲んでて噴き出していて、さっき投げられた手拭きを渡してあげた。 「お前バカなの?」 「これでも将来有望って言ってんじゃん」 「………お前バカだわ。とりあえず1週間後にちゃんと決めろ。それまでは入れないでやるよ」 「その間の俺のご飯は!?」 「作ってやるから。でもんな遅くまで待てねえよ。作っておくけど先に食うから」 「それはいーよ。俺、午前様とかよくあるし」 「は?」 「実を言うと今日の休みをぶんどるために今週は毎日午前様だし」 「………ブラック過ぎんだろ」 「真っ黒だよ。俺の人生バラ色とか同期は言うけど、こんな黒いバラ咲かせてどうすんだろ」 出世だけがバラ色じゃない。 人らしい生活をしたい。 朝起きてご飯も食べずに仕事に行って、仕事して昼食って仕事して夜食食って仕事して。夜な夜な家に帰って風呂入って洗濯して。 全然人として輝いてない。

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