その後もおにーさんに愚痴をこぼしまくる俺に、おにーさんは一旦出るぞと言って喫茶店を出た。そこで向かったのはペットショップ。 「？なんか飼ってるの？」 「お前を飼うんだから必要だろ」 そう言って見てるのは大型犬用の首輪。そう、首輪。 俺がつけんの？おにーさん、変わった趣味だな。成人した男を飼うとか言うし、そうとなれば首輪を買うし。 「どれがいい？」 「うーん」 どれでもいいけど、それより気になること。 「俺、まさか床でご飯とか…」 「言わねえよ。飯は普通にテーブルで箸とか使えばいいし、トイレも使え。風呂は出来たら夜に入ってくれれば助かる」 「良かったあ。いくら美味しいご飯でも床じゃちょっとね」 「どれでもいいなら黒でいい？」 「うん」 「あとはそうだなあ」 ぐるりと見渡して、色々と手に取ってるけど、俺のこと本当に飼う気だ。リードとかも買ってる。俺脱走とかしないけど。 「お前、抵抗感ないの？」 「あんましない。それよりご飯なぁに」 「今夜は和食。俺が焼き魚食いたい」 「わぁい！お魚なんて久しぶり！」 休みの日、俺何食べてたかなあ。 そんな焼き魚なんて食べてない。そもそもグリルないし、コンロ使ってたらまな板置けないし、狭すぎて自炊は無理。 「あとは家の近くで食料品買うか」 「おにーさんちどこらへん？」 「△駅が最寄り」 「隣じゃん！俺◯駅」 「なら明日にでもお前んちに荷物取りに行くか」 「？」 「着替えとかいるだろ。置いてていいぞ」 やばい、おにーさん。こんな見ず知らずの俺を飼ってくれるなんてありがと。俺、俺… 「おにーさん、ありがどぉ」 「なんでまた泣いてんだよ」 「うれじ泣ぎ」 ほんと、なんかよく分かんないけどいい人に拾われた。 会社はちょっとブラック過ぎたけど、俺いい人に飼ってもらえそう。 その後もおにーさんの後をついて歩き、食料品売り場では好きなアイスも買ってもらった。急だからこれが今日のおやつらしい。 「そう言えば名前は？マコトって本名？」 「うん。伊藤誠だよ」 「フルネームは聞いてねえけど。なら誠でいいか」 「うん、なんなら好きに付けていいよ」 本気でそう言うけど、おにーさんは呆れた視線を向けただけだった。ペットには名前つけるのが普通だから、好きにつければいいと思っただけなんだけどな。 そんな話をして、おにーさんの家に着く。 「うわあ、綺麗、綺麗、すごい」 「憧れのオートロック！！！」 「すっご！ポストが個別！やばい！」 「廊下ひろ！」 「うるさい。ここな、俺の部屋」 「304号室！おじゃましまーす」 「きっれ！ひろ！ソファある！やば！」 「うわあ！こっちは？トイレ！うわ！トイレだ！」 「洗面所が独立してる！やったあ！脱衣室もある！」 「ふっ、ははっ、誠どんな部屋住んでんの」 少なくともこんな家には住んでない。やっばーい！ここが今日から俺んち。こんなところに住んでいいの？ 「さてと、誠脱いで」 「え？」 「服」 そんな、早速！？ でも俺もうアイス食べたしなあ。 俺はおにーさんに飼われてるし、ペットってあんま服着るもんじゃないから仕方ないか。 パーカーとインナーを脱ぐと、痩せて骨の浮いたキモい体。腹筋は割れてるんじゃなくて肉がなくなった結果分かるようになっただけだ。 スキニーを脱いでパンツを脱ごうとしたらもういいと言われておにーさんが近くに来た。じっと見ると俺に首輪をつけて、適当にシャツを着せた。おにーさんは背が高いから、おにーさんのだとブカブカ。俺のボクサーパンツがチラ見えする感じ。 「裸は可哀想だから。うちではそれな」 「冬も？」 「暖房入れるけど、その時考える」 「はぁい」 良かった、裸で過ごせって言われたらどうしようかと思った。俺が痩せたせいもあるし、おにーさんか背高いしで完全に彼シャツ状態な俺。 「おにーさん、こう言うの好きなの？」 腕を精一杯伸ばしてみても、シャツからは俺の指先しか出ないし、パンツもチラ見えするだけで見えっぱなしにもならない。 「お前が最初会う予定だった奴はどっちかっつーと連れ去られた奴の方がタイプだけど、俺は細い方が好き」 あ！そうだ！すっかり忘れてた！ 「……阿川くん、どうなったのかなあ」 「阿川っつーの？そうだなあ、まあちょっと痛い思いしてかなりいい思いして帰ってくると思うけど。お前、俺通して弟と連絡取れるって言わねえ方が楽だぞ」 「？」 「あいつって一回でポイするけど捨てられた側があいつにハマるから」 「ふーん。よく分かんないからどうでもいいけど、おにーさんと阿川くんを連れ去った人と俺が連絡取ってた人の関係は？」 「弟と妹。弟はああ見えてだいぶ強いからいいんだけど、妹は普通だから俺をボディーガード扱いだな」 えらいまあ変わったきょうだいな事で。 兄は人を飼って、 弟はネカマして男を拉致して、 妹は好みのタイプじゃなかったら即切り捨て。 妹さんはこういうのやめた方がいいだろうけど俺がいう事じゃないか。