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「おにーさん達、変わってるね」 「まあ否定はしねえ」 きょうだい揃って人を嬲って楽しむからな、なんて聞こえた。嬲る……? 「ヘイシリ」 「は?」 『ご用件は何でしょうか』 「嬲る、意味」 『こちらが見つかりました』 ふむふむ。困らせたりいじめたりして面白がる、ね。 「悪趣味〜」 「そういう性癖。安心しろよ、俺は弟ほどひどい奴じゃねえから」 「弟そんなにひどいの?」 「タチが悪い。俺はその点大事に飼うから」 飼う飼われるで話してるのが俺のことだもんな。普通人って飼わない。人にこんな、首輪なんて付けない。そういうおしゃれ用ならまだしもただの犬用。 「なんでリードもいるの?」 「放っておくとき逃げたら困るから」 ふーん、俺こんな好条件そう逃げないと思うけどなあ。 体は好き勝手されるらしいけど、それがおにーさんの言う嬲るってことでしょ。 「社畜からペットに昇格した」 「むしろ降格だろ」 「なんで?」 「社畜は人権あるだろ」 「朝の7時から働いて早くても9時頃にしか帰れなくて、休憩もろくすっぽないままX線室で危険と隣り合わせの仕事をしながら他の業務も振り分けられてアプアプしてるどこに人権あるの?」 「…………お前、ある意味期待されてんだな」 「育てようとしてくれてることはわかる。育て方がだいぶ雑」 「おにーさんは、優しく育ててね」 「いい子にしてたらな」 そう言って頭を撫でてきた。 うん、完全にペット扱い!でも心地いい。この人、しがみついた時にも思ったけど体温高いのな。もっとと見上げると、くしゃっと笑ってぐしゃぐしゃと撫でてくれた。 「誠、髪伸ばしてんの?」 「切る暇がないだけ。切りに行くのが面倒だし、時間も俺が行ける時間って絶対やってないし、休みの日は家事が溜まってるし」 「へえ、なら弟に切らせる?」 「………坊主にされない?」 「されないって。あいつ美容師見習い。今はアシスタントしてて、カツラ以外でカットの練習したいんだとよ」 「ふーん。普通に切ってくれるなら別にいいよ」 「あいつにさせるなら誠が帰ってきてからここに呼べばいいし」 「っ!名案!是非お願いします!」 切りに行かなくていいとか最高!マジで?いいの??やったぁあ! 言葉通り飛んて喜ぶ俺を見ておにーさんが笑った。 おにーさん、笑うけどね。 俺が働いてから1番感じたこと知ってる? 時は金なり。タイムイズマネー。 俺の限りある時間のほとんどが仕事に費やされて、それなのに全然金にならなくて、俺の安さを実感したんだよ。 時間って本当に大事。こうして休みの日に家事に追われることなく誰かと話して、ましてや温かい手で撫でられるなんて。 「ゔぅ、おにーざぁん」 「うわ、また泣いてる。ほら、よしよし」 おにーさんは俺を嬲ると言うけど、これじゃ可愛がられてるだけじゃん。この方が俺は好きだけど。俺より大きな目の前の体にグリグリ顔を押し付けて涙を拭く。拭くなって言うけどもう遅い。 こんなにあったかいのが久しぶりで、涙が止まるまでおにーさんから離れなかった。 「泣き虫だな」 「だって……俺ほんとにこの2ヶ月辛すぎて」 「なんでそれでも働いてんの?」 「おにーさんも言ったじゃん。仕事量がおかしいけど、俺に社内で必要な知識を満遍なく付けさせるために同じことってあんまりさせないの。俺がするほうが時間かかることだって多いのに、それを待ってでも俺にさせるの。そんでやり切ったことを褒めてくれるからいい上司だとは思う」 「でもでもでも!だからってこんなにプライベートないとか死んじゃう!俺の孤独死過労死待ったなし!おにーさんみて!この浮いた肋!鎖骨!この腹筋!痩せたせいでこんななっておかしくない!?」 「いくら華奢が好みでもちと細いな」 「うひゃっ!ちょ、くすぐったぁッ」 「んな無防備に見せんなよ」 見せるためにあげてたシャツを下ろす。全く、油断も隙もない。骨が浮いてるところって当然脂肪がほとんどないからすっごいくすぐったいんだって! もおっ!とおにーさんを見ると、そういう姿すっげぇ唆ると言われて、おにーさんが変な人だと言うことを再確認した。

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