10 / 438
10.
お風呂では頭も体も洗ってもらい、ついでにえっちな世話もしてもらった。湯上りは体と頭を拭いてくれて、服を着せて貰ってから頭も乾かしてくれた。
替えのパンツがないせいで、ダボダボのシャツにノーパン。なかなか間抜けな格好で俺はソファに寝転がっていた。
「なんか飲む?」
「なにあるー?」
「アクエリとコーラ、お茶と水」
「お茶」
俺とりに行けよ!って思った時にはおにーさんがグラスに入ったお茶を持ってきてくれた。
こんな生活してたら俺、社畜に戻れない。
「ゔぅ」
「は?」
「おにーざんのばがぁ」
仕事があるのに、こんな生活してたら仕事に殺される毎日になんて戻りたくない。今日寝て今日に戻ってきたい。明日なんて来なくていいから月曜日が来ないでほしい。
「やだぁあ仕事いぎだぐないい」
「おいっ、抱きつくなっ」
俺に抱きつかれたおにーさんはグラスのお茶をテーブルに置いて、俺の頭をヨシヨシと撫でた。うう、やっぱり仕事に戻りたくない。もうやだ。
「おにーざん」
「なんだよ」
「俺が過労死したら戦ってね。ペットの人権損害だって戦ったね」
「おお、そうなりゃ俺がお前の人権損害でお前の親に訴えられるわ」
「戦ってよお!」
「誰とだよ」
そう言いながらもその手は俺を撫でてくれる。
この人の手、本当にあったかい。体もポカポカしてる。
あったかくて柔らかいペットが欲しかったけど、俺が手に入れたのは俺の飼い主。俺はペットを買ったんじゃなくてペットになった。それでもここはあったかい。
「ねー」
「今度はなんだ?」
「おにーさんは俺の飼い主だよね?」
「そうだな」
「ご主人様って呼んだほうがいい?」
「………」
なにやら真剣に考えてるらしいおにーさん。今更変えれる気はあんましないけど、一応ね。
「どっちでもいい」
「ならおにーさん。もっと、もっと撫でて」
「お前、ほんと懐くというか甘えるというか……」
「飢えてるの」
グリグリとおにーさんに体を押し付ける。
おにーさんは呆れながらも俺のことを撫でてくれて、その手に少しずつ意識が微睡んでいく。
「眠い?」
「んん、もお寝る」
「歯磨きした?」
してないと首を振ると洗面台に連れてきてくれた。歯磨き粉を乗せた歯ブラシを渡され、仕方なく磨く。
おにーさん、こういうところまでしっかりお世話してくれるんだね。俺1人だったらこのまま寝てた。歯医者に行く暇もないのに、俺自分でどんどん自分を追い詰めてた。
歯磨きが終わった頃にはボロボロ涙が溢れていて、おにーさんはまた俺を抱えて寝室に移動した。
「ゔぅ、俺ぇ、ほんどにだめなやづだあ」
「なにが」
「ゔぅ、おにーさん、拾っでぐれでありがどおお」
絶対にぐしゃぐしゃになった顔、布団にもシャツにもパジャマにも涙と鼻水ついてるだろうにおにーさんは何も言わずに抱き締めて背中を撫でてくれた。
「頑張りすぎ。今は寝てろ」
おやすみ、と言ってくれた言葉よりも。おにーさんの暖かさが俺にとっての睡眠導入剤。
人肌を感じで眠るのなんて久しぶりで、泣きながら寝たのなんてもっと久しぶりなのに、すごくよく眠れたような気がした。
ともだちにシェアしよう!