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「お前、鍵どうする?」
「?」
家に入ってケーキを大事に冷蔵庫に直す俺におにーさんが質問をする。意味がよくわかんなくておにーさんを見ると、噛み砕いて説明をしてくれた。
「今みたいに俺いないと入れねえの不便じゃね?」
「うーん、今は要らない。どうせ明日からはおにーさんより早く出ておにーさんより遅く帰ってくるもん」
「ひでぇ会社だな」
「あんま言わないで、俺泣きそう」
「泣き虫」
反論のしようもない。
おにーさんに会ってから俺の涙腺は崩壊しっぱなしで、事あるごとに泣いている。彼女に振られた時でさえ泣かなかったのに、今はご飯が出てくるだけで泣いている。
この中身たっぷりの冷蔵庫だってすごくいい。というかビール………
「おにーさん、夜一本ちょーだい」
「お前飲めるの?」
「弱いけど好きっ」
「弱い奴に限って好きだな」
好きと飲めるは違うからいいもん。俺は弱いけど好きだし、強くても好きじゃないなら飲まないと思う。嗜好品なんてそんなもん。
「タバコはやんの?」
「やらないよぉ。匂いが苦手。味はまずい。けど大人になった気分でやってみたけどやっぱ微妙だった。ストレス発散どころかまずいもの吸って余計嫌な気分になった」
「ああ、そう」
昔から匂いは苦手だったけど、大体吸ってる人はストレス発散とかいうじゃん。だから働き始めて吸ってみたけど全然発散できなかった。あの時にもう2度と吸わないと心に決めた。
おにーさんはタバコもお酒も付き合い程度だと言っていた。1番好きな嗜好品はコーヒーらしい。朝のカフェオレは美味しかったし、あれがこれから毎朝飲めるなんて幸せ。…………
「おにーさん、平日も朝ごはん、ある?」
「何時に家出る?」
「遅くても7時……」
「チッ、しゃあねえな。先に飯から作ってやるよ」
「やったあ!和食の日もある?」
「あんまねえよ。たまになら作ってやる」
「わぁい!おにーさん大好き!」
「お前、ほんとやっすいな」
いいの、これが俺。
ご飯だってままならない生活だったから……。なんのために働いてるの?って聞かれたら会社のためだよ。自分の生活とかそんなんじゃない。会社のためだけに働いてた社畜だもん。
そんな社畜生活も残念なことに始まったばかり。
辞めるのが先かうっかり死ぬのが先か、どっちだろう。
「おにーさんに拾われてよかった……」
「俺も。思ったより躾がいがありそうで楽しみ」
「躾?」
「そ、躾。上手にできたら褒めてやるよ」
グリグリ頭を撫でてくるおにーさん。
俺、ちゃんと1人でご飯食べれるしトイレもできるし、お風呂も入れる(昨日は甘えたけど)。他に何か躾けるようなことあるっけ??
考えてもわかんなくて、そうしてる間におにーさんが作ってくれた昼ごはんに目を奪われて考えることをやめた。
楽な服(シャツ)に着替えてからお昼ご飯を食べて、おにーさんちのテレビにプレステを接続して久しぶりにゲームを起動した。おどろおどろしいBGMと共にゲームが始まり、クッソ難しいクエストをクリアして進める。もう何回も死んで、何回も挑戦しては死んでいるクエスト。それでも自力でやり遂げたくてこのゲームにハマってる。
「お前死にすぎ」
「これマジでドMゲーで有名だから!それ分かっててあえてハードモードで突っ込むのが俺だから」
「………ドMゲー、ねえ」
「そう、死なずにクリアするより、何回死んだか数えるゲーム。オプションで見れるよってうわぁあ!毒沼!」
ドMねえ、なんで呟くおにーさんがゲーム画面じゃなくて俺を見ていたことには全く気づかなかった。
ああもう無理、今日はおしまい、とコントローラーを手放した時には窓の外は暗くなっていた。おにーさんは見た当たらなくてどこだろと探したらお風呂場に明かりがついていた。お風呂に入ってたのか。
「誠?」
「なにー?」
「お前も入る?」
「………なにもしない?」
「それはどうだろ」
まあ別になんかされてもいいんだけど。おにーさんの手、いろんな意味で気持ちいいもん。シャツとパンツだけだから脱ぐのは簡単で、湯気の立つお風呂場に入る。
「自分で洗える?」
「ん」
昨日は甘えたけど、ちゃんと1人で洗えるもん。
モコモコと泡だてて頭も体も洗う。
「は?お前なにで体洗ってんの?」
「??シャンプー」
「それ髪用な」
「一緒だよ。多少違うけど、どっちも同じような成分で洗うんだから。えーと、うん、一緒一緒。あ、でもこの2つだとボディソープで洗った方が良かったかも」
「ボディソープで頭洗うのかよ?」
「だから一緒だって」
シャンプー、ボディソープなんて所にこだわらずに成分で買えばいいのに。そんなこと言う俺はそこまで成分なんて気にしてないけど。
「ちゃんとここも洗えよ」
「ふひゃっ!!!」
「汚れ溜まりやすいんじゃねえの?」
「もおっ!ちゃんと洗ってるもん!」
「へえ」
湯船から上半身を乗り出して俺のものを触ったおにーさん。おにーさんの言うように包茎っていつもかくれんぼしてるからちょっと汚れが溜まりやすい。だからちゃんと皮を剥いて洗うんだけど、そんな見られたらやりづらい!
「おにーさん見ないで!」
「無理。ちゃんと上手にできるか見とく」
「もお出来るから!俺22歳!」
「ほら、さっさと洗え」
なにこれなにプレイ!?
何でそんなところ洗うの人に見られなきゃなんないの!
そう言うのはこっそり1人でそっと洗うものだって!
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