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17.
相変わらず馬車馬よりひどい会社。
誕生日に出張をぶち込むは、そこは懐かしの母校だけど元カノも居るし……。あんまし会いたくない。振られた時でさえ相当責められたのに、会って直接責められるとかメンタル的にキツイ。
そう思ったら帰るなりおにーさんに泣きついていた。
俺が帰る頃、おにーさんは起きていることが多くておかえりって言ってくれる。それにも当然、泣いた。
そして俺にと用意されたご飯があって、泣いて食べるから味なんて分からないけど美味しかった。
おにーさんに飼われてみても仕事は相変わらずだったけど、プライベートが少し充実した。
土曜日、うちの会社(部署)は土曜日も仕事。
週休2日を謳ってるのに、土曜日も仕事。当然、平日も仕事。技術部以外の人は土曜日に出たとしても交代制で、その代わりに平日を休んでることが多い。つまり他の部署は週休2日だ。技術部だけがおかしい。
そんな土曜日、人が少ないからこそ大型のところでやりたかったことをしようと荷物を持って篭ろうとしていた。
「伊藤くん!」
「おはよお阿川くん」
「あの、さぁ」
「うん」
「………俺が居なくなった後、伊藤くんどうしたの?」
あ、ついに聞かれた。
おにーさんはおにーさんと連絡が取れる(間接的にミホちゃんを知ってる)って言わない方がいいって言ってたんだよね。なんでだろ。
「ミホちゃんに会いたいのにあの日以降連絡こないんだよ!」
「………あの後何があったの?」
「新しい扉を開いた!」
返事になってない。
えーとなんだっけ、ちょっと痛い思いしてかなりいい思いするんだっけ。ふむ、ハマったわけか。
「へえ。俺はあの後帰っていいって言われただけだよ。タイプじゃないって言われた」
カホちゃんにはね。用心してそれをおにーさんに言わせたカホちゃんには会ってない。そして、阿川くんが会いたがる人はおにーさんの弟。
「そうか……最初はなんだよコイツ!って思ってたのに、ミホちゃん忘れらんない」
ブツブツ言うのは自由だけど、そもそもミホって名前じゃないっての分かってんのかなあ。俺も聞いてないから知らないけど、今のところ不便さを感じてないから気にしない。
「痛くなかったの?」
「痛い………ってなんで伊藤くん知ってるの?」
「あ、ええーと。なんとなく?」
「ちょっと!ミホちゃんのこと知ってんの!?」
「いや、ミホちゃんのことはマジでなんも知らない」
ボロが出る前に俺はやりたいことに篭ろうと別室に逃げ込んだ。
うちの会社じゃここでしか出来ない作業なんだけど、ものすごく効率が悪いため効率化を図っている。なんでそんな大事なものを入社2ヶ月の俺がやってんだよって思うけど仕事だから仕方ない。
2ヶ月、試行錯誤した上でこれならいけそうって方法はあったけど精度が安定しないのでそこを詰めている。土曜日は営業さんが急な仕事を持ってくることが少ないから、こうして技術部を離れて篭りやすいのでよく来ている。
土曜日だけは残業をしないのが技術部ルール。
ただでさえ週休2日を得るためには他の日を全て午前様する勢いなんだから、週6働くから土曜日くらいは定時で!とみんなが燃えている。
集中しているうちにお昼が回っていて、今日は食いっぱぐれたことを知り、絶望に打ちひしがれながら片付けをして更衣室で着替えた。
「伊藤くん、本当にミホちゃん知らない?」
「知らない」
「俺、パンドラの箱を開けちゃった………。それか食べちゃいけない木の実を食べた」
「神話?まあ、縁があれば会えるよたぶん」
おにーさんがいった通りだ。阿川くんはあの時は戸惑ったように消えていったのに、今はミホちゃんにハマったらしく会いたがっている。当のミホちゃんは1回でポイするっておにーさん言ってたもんなあ。
俺は人のことをお世話してるほど暇じゃない。そんな暇があるならおにーさんちに帰ってソファでゴロゴロしなきゃいけない。
バス通勤の阿川くんと別れて原付を飛ばしておにーさんちに帰り着く。
今夜は俺とおにーさんの契約内容の確認が行われる、予定。
平日に入ってから、おにーさんは変なことはしてこない。最初の2日は好きなようにされたけど、平日に入ってからは泣きつく俺をよしよしするだけで何もしなかった。
だけど俺の朝ご飯と夜ご飯は毎日用意されていて、俺はそれにすら泣いた。最近ようやく慣れてきて、泣かずに食べれるようになったおかげで味がわかるようになった。
基本的に薄味で、優しくあったかくて、なんとなく懐かしい味がした。
「おにーさんただいまあ」
「おかえり」
「あ!今日のおやつプリン???」
「見つけんの早え」
「そのお店のプリンってひよこの顔描いてるやつだよね?食べてみたかったやつ!やったぁ!」
畳まれて端に置かれた紙袋、それはプリンが美味しいと有名なお店のもの。俺のおやつだぁあ!
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