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「おにーさんは俺をどうしたいの?」 「痛くて感じるバカ」 「露骨!」 「お前が聞いたんだろ」 おにーさんの育て方ってちょっと変だよ。ペットのことは痛めつけるんじゃなくて愛でるだけでいいんだよ、なんで痛めつけるの。 「それって痛いの?気持ちいいの?」 「お前次第じゃねえの」 「うーん……」 「さっきは?」 さっきか。 それこそ分かんない。気持ちいいのと痛いのが共存してて、絶妙なバランスで俺に襲いかかってどっちが分からなくさせて俺をおかしくした。つまりそーゆーこと? 「さっきみたいにしたいってこと?」 「まあ、あれよりひどいことするかもしんねえけど」 「傷跡が残るようなことする?」 「しない」 傷跡が残るようはことはしないならちょっと安心。 けどあれより酷いことって、さっきも十分酷いよ。あんまり抓って引っ張られたもんだからお風呂あがりに適当にタオルで水分を拭いてたら痛かった。 「………ご飯は?」 「は?」 「ずっと1日3食?休みの日はおやつもある?」 「ある」 「布団は一緒?ギュってしていい?」 「ああ」 「話もできる?」 「ああ」 せっかく手に入れた人らしい生活。これを今更手放して、あんなただの社畜に戻るなんて、やだ。シリと炊飯器とポットと洗濯機が友達の生活なんてもうやだ。朝起きても夜家に帰っても誰もいなくて、全部全部自分でやって全然時間なんてなくて、少ない給料は使う暇がなくて貯金ができるなんてそんな悲しい生活に戻るなんてやだ。 「ゔぅ、ゔ…やだあ」 「は?なんで泣いてんの」 「やだあ、もおあんな生活やだ。おにーさん俺を飼ってて、やだやだ、もお1人はやだあ」 起き上がってぎゅうぎゅうとおにーさんにしがみつく。知らなかったら耐えれてたのかもしれないけど、今は同じように働いてもこうしてあったかい生活もできるって知っちゃった。戻れない、こんなの戻りたくない。 「ほんっと泣き虫。飼うのは良いけど、そうなりゃ契約内容の確認だな。どこまでが良くてどこまでが嫌か」 ずびずびと鼻をすすり、契約内容を考える。 痛いことはしないで、っていうのは絶対に言えない。だっておにーさんは俺を痛いことされて感じるバカにしたいんだから、痛いことをするなは無理。 「おにーさんが何したいのか分かんないけど、痛いだけにしないで」 さっき見たいに気持ちいいと痛いが共存して訳わかんなくなるのは、おかしくなりそうだけどたぶん大丈夫。 「他には?」 「おにーさんのおちんちん俺に入れる?」 「お前の方が露骨だろ。いずれ入れる」 「ゴムはつけてね」 「マナーだな」 最後までするならそういうマナーも大事。 他には、他には。うーん、俺に思い浮かぶことってあとはお尻の心配。痔になる気がして仕方ないってことくらい。 そんなの言うだけバカらしいからもうないと首を振ると、今度はおにーさんの条件が提示される。 「他に尻尾振るのは許さない」 「忠犬でいろってこと?」 「そう」 「分かったあ」 ペットが他所に懐くのを嫌がる人もいるもんなあ。おにーさんはそのタイプなんたね。 「あ!」 「なに?」 「飼えなくなったら仕方ないけど、いきなり追い出すのはやめてね」 「飼い殺すつもりだからその心配はいらねえよ」 「え?俺飼い殺し?」 「そう。わざわざ俺が手間暇かけて好みに育てんだから捨てるわけねえだろ」 「ってことは俺ずっと1日3食?おやつ付き?」 「そうなるな」 「やったぁあ!」 おにーさんの作るご飯って本当好き! いい人に拾われたかもしれない。 あ、でもずっとって、ずっと?? 「おにーさん、ずっと飼ってくれるの?」 「その予定。保健所連れてったりしねえよ」 「会社にクーリングオフもしない?」 「ぶっ、しねえよ」 「………なら俺、ここに住むの?」 「ん?ああ、アパート?」 コクリと頷く。 あんな部屋で給料が下がってるなんて信じられない。引っ越したところで、家賃補助から住宅手当に切り替わるから増える給料は2万だけど、貰えるなら貰いたい。 「好きにしろ。引っ越してくるならくるでいいし、狭いならもうちょい広いとこ引っ越してもいいし」 「嫌味だぁ!俺の部屋知ってるくせに!」 「あれは社畜用だろ。人用じゃない」 ぐぐぐっ、なにも言い返せない。 たった4.5畳。無理やり置かれたベッドに大きなブラウン管テレビ。人が住むには狭すぎるし、今時の配線すらさせないテレビ、最初から使わせる気がないんだと思う。 自分の部屋を思い返して項垂れてから、この部屋がいいと返事をする。会社に近いし、土地的にも慣れてきている。慣れな土地だからそんなに移動を重ねたくないし、何より引っ越しする時間があるならゴロゴロしたい。

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