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37.
おにーさんの言ったように、電車に乗って、一度だけ乗り換えて30分もしない間に横浜に着いた。こんなに近かったの?と驚く俺に近いだろと言っておにーさんは笑った。
「で、どこ行きたいの?」
「中華街!シーパラ!江ノ島!」
「1個横浜市じゃねえよ」
「?」
「今日は中華街な」
「はあい」
全く土地勘がないから、思い浮かんだものを言ってみたけどどうやら1つ横浜市じゃないらしい。それがどれなのかも俺にはよく分からない。
「おにーさんよく来るの?」
「何度かな」
「そっかあ。おにーさん、好きな店とかある?」
「あるけど」
「なら今日は俺がご馳走するー!」
「バカ、なんでだよ。お前に奢られるつもりはねえよ」
「いいじゃん、たまには!」
「嫌」
むむむ、手強い。
おにーさんは俺に払わせないにも程がある。だけど今日は何が何でも俺がご馳走したいのだ。
ボーナスがきちんと振り込まれていて、ここまで元気に働けたのはおにーさんの毎日のお世話のおかげ。だからこのボーナスでおにーさんにご馳走したい。
「あと俺、来月におにーさんちに引っ越すからその前金?」
「は?」
「だってアパート全然帰ってないもん」
「それは知ってる」
「前、好きにしろって言ったじゃん」
「驚いてるだけだって。引っ越してくんのは構わねえよ」
つい可愛くない(俺に可愛さは求められてないけど)ことを言ったのにおにーさんはあんまり気にしていないようでそのまま話を続ける。家は今のままでいいかと聞かれたけど、十分。むしろ引っ越さないでほしい。
「俺、おにーさんと居るの好きだよ。ゲームしながら聞こえるおにーさんが家事してる音、すっごい好きだから今のままがいい」
「はいはい」
「だからご馳走させてくれる?」
「…………分かった、お前の分はお前が出せ。俺のは俺が出す」
そこは男らしくポッキリ折れてくれたらいいのに完全には折れてくれないおにーさん。むっと見上げると奢られんのは性に合わないと言われ、機嫌直せと頭を撫でられた。
別に機嫌が悪いとかじゃないんだけど、何というかいつものお礼くらいしたいって言うか。だけどおにーさんはきっとこれ以上は折れてくれないから、渋々納得した。
おにーさんが連れて行ってくれたお店は当然中華で、小籠包がうまいから食べろと言われて小籠包とほかにもいくつか頼んで半分こして食べた。
おにーさんが美味しいと言った小籠包はお箸を入れるとじゅわあと肉汁が溢れる逸品だった。うっかりお代わりを頼んだほどに美味しかった。
「もおちょっと高い店でも良かったのに」
「中華街では俺、あの店が1番好きなんだよ」
「ほんとに?嘘ついてない?」
「つく意味ねえよ」
それなら良いんだけど。
少し考えてみると、もしもかなり良いところとかに連れてかれてたら俺味わかんないしテーブルマナーはなんとなくしか知らないからこれで良かったのかも知れない。
少し遅めのお昼ご飯を食べて、おにーさんとぶらりと中華街を楽しんで少し早めに帰ろうかと帰りの電車に乗った。
とっても楽しかった。
馬車馬のように働いてることも忘れるほどに楽しかった。でもだからこそ、今日が終わるのが嫌だった。家に着くなりおにーさんにしがみついて甘える俺に苦笑を零し、あとで甘やかしてやるからとおでこにチュッてされた。
「おにーさん、何でチューはしないの?」
「されたいの?」
「どっちでもいい。おでこにもほっぺにも目尻にもするのに口はしないなあと思っただけ」
「うるさいやつだな、ほら、これでいいか?」
唇に一瞬、おにーさんの唇が触れた。
こんなことよりもっとすごいことしてるはずなのに、何でかすごくドキッとした。おにーさんが素面のまま、仕方ねえなという感じでしただけのことなのにドキッとした。
「大人だぁ………」
「はあ?」
「いいなあ、俺もおにーさんみたいになる!」
「お前は飼うより飼われる方が向いてる」
「そぉいうことじゃないから!」
人を飼いたいとかそんなことじゃくて、こうして余裕のある大人になりたい。もう成人して、ちゃんと働いてる大人なはずだけど、こうして身近にちゃんとした大人の男の人(中身は置いておくとして)がいるっていいなあなんてしみじみと感じた。
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