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「やばい、カレーに見える」 「ミホちゃんまで何てこと言うの!」 「ごめん、なんかもっと変なもの出てくると思ってた」 くううう! 「穂積、問題は味だろ」 「だよな。カレーってルウ使えばとりあえずこんな感じになるし」 「ほんと酷い!ちゃんとカレー作ったのに!」 テーブルに3つ置かれた大皿には俺が作ったカレー。おにーさんもミホちゃんも失礼なことを言い過ぎだ。フンっと1人いただきますと言って食べ始める。この2人は俺が食べなきゃ口を付けそうにない。そこまで疑われるほど俺、何も出来ないのかなあ。 自分で食べる感じ、ごく普通のカレー。とびきり美味しいわけでも、とびきり不味いわけでもなく普通のカレー。俺が食べていると、おにーさんとミホちゃんが恐る恐るカレーに手をつける。 「「普通にカレーだ」」 「だからカレー作ったって言ってんじゃん!」 くっそお!なんでだ!どうしてこんなに疑われるの!? 「誠、普通に作れ……ん?」 「なんか入ってる、なにこれ、皮?」 「あ、ジャガイモの皮だよ」 「「は??」」 「ピーラー無いと皮むき出来ないもん」 「兄貴、今度ピーラー買ったげて」 「その前に料理させねえよ」 なんでそんなに気にするんだろ。芽はきちんととったし、緑になってるところがないかも確認したから毒素的な問題は全くない。これは普通のジャガイモだから皮を食べることってあんまりないけど、新ジャガだと皮ごと調理しちゃうんだから気にしなくていいはずなのに。 ちょっと納得できない気もしたけど、2人が全部食べ切ってご馳走さまって言ってくれたから気にしないことにしよう。 「意外と食べれた」 「普通にカレーだったな」 「2人ともほんとに失礼」 「ごめんごめん。今度なんかお土産持ってくるから許して」 「俺の分2つね」 「はいはい」 ああ、やっぱりおにーさんとミホちゃんはよく似てる。 言葉の節々、ふとした時に見せる表情。話さずに黙って立っているならそんなに似てない2人なのに、話して表情が変わっていくと似てるなあと思う。 「なんか付いてる?」 「ううん。おにーさんとミホちゃん、似てるなあって思っただけ」 「似てる?あんま言われないけど」 「はいはいって言い方とか、噴き出して笑う時とか、意地悪そうに笑う顔がそっくり」 「そんなの言われたことなかった」 こんなに似てるのに? 黙ってたら似てないからあんまり言われないのかな? それとも2人がさでぃすてぃっくだと知ってるから似てるように思うとか?うーん、何が理由かはわかんないけど俺には2人はよく似て見えるけどなぁ。 ご飯を食べてしばらく話し込んで、おにーさんが片付け始めるタイミングで俺とミホちゃんは散髪の用意にかかる。俺は頭を濡らすためにお風呂に入り、ミホちゃんは床に新聞紙を敷いてくれていた。お風呂上がりにリビングに戻ると切るための場所が整えられていた。 「ミホちゃんよろしくお願いします」 「いいえ、俺こそありがとね」 「いいよぉ、切りに行かなくていいから助かってる」 「長さは前と同じくらいでいい?」 「うん」 「前髪だけアシメに切ってみてもいい?そんな奇抜にも派手にもならないようにするし」 「お客さんに会えそうならいいよぉ」 アシメってあれだよね、左右非対称。 俺がやって似合うのかなあ、なんかキリッと流し目決めてるイメージなんだけど俺のキャラじゃないよね。大丈夫かなぁ。 チョキチョキとハサミが動く音が聞こえるけど、美容室とかじゃないからどうなってるのか見えなくて完成までのお楽しみのこの時間は結構楽しい。ミホちゃんとする話は仕事のことだったり、あるいは阿川くんうざいって話だったり。 「阿川くんって、ミホちゃんのこと好きなの?」 「それは違うと思うけど。普通に生きてて男が縛られるなんてないじゃん、鞭で打たれるとかも。あとなにしたっけ……」 「ミホちゃん、ごめん。内容は聞きたくない」 やだっと手で耳を塞いでミホちゃんに向きを変えると意地悪そうに笑っていたので、多分わざと言っている。それを考えたら、おにーさんってまだ優しいのかも知れない。なんかいつか縛るってことはあり得るかもだけど…… 「おにーさん!俺鞭はやだ!」 「ならいい子にしてろ」 「うん!!!」 おにーさんに泣きそうになりつつ訴えると、この返事。うん、いい子でいる。鞭とか痛い。その時痛いとかじゃなくて、その時もだしその後もミミズ腫れとかならない?そんなの服着ただけで痛いじゃん! 「ぶっ、誠くん、それ兄貴に言う?」 「?」 「そんなん言われたら俺なら余計やりたくなるけど」 「へっ!?なんで!?」 「嫌がることすんのが楽しいから」 語尾にハートマークでもついてそうなくらいにっこり笑って言われても、怖いよおっ!阿川くん、よくこんなミホちゃんに会いたいね。髪の毛を切ってくれるミホちゃんは好きだけど、さでぃすてぃっくなミホちゃんはやだなあ。おにーさんよりやばそう。 「でも、おにーさんはしないって言ったらしないよ?」 「あれはしないって言ったんじゃなくて、悪い子になれば打つよって言ってんだよ」 「………いい子でいるもん」 いい子でいたら打たれずに済むもん。 ミホちゃんがおかしそうに噴き出したけど、そんなの知らない。する側の楽しさも分かんないけど、今の所ただ痛いだけの楽しさも俺には分かんない。 「俺は自分のものにならない奴がいいんだよ。縛るのも縛られるのもごめん」 「ふうん、そっかあ」 あんまり聞いちゃダメなんだろうなって、すぐに分かった。阿川くんがミホちゃんをどう思ってるかも分かんないし、ミホちゃんが阿川くんのとこを含めて自分がそうして遊んでいることをどう思ってるのかも分かんないけど。 ミホちゃんにはそうしている理由がある、と思う。でなきゃこんな寂しい声と顔をしてない。 そんな顔は一瞬で引っ込めたミホちゃんは、後もうちょっと切るよと言って俺を前に向かせた。

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