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散髪が終わって自分を見ると、前髪が左のほうに流れるように切られていた。長さに差はあるけど、きちんと分けてセットさえしていればお客さんに会うときも問題なさそうだし、何より視界がすっきり! 「ミホちゃんこれいいね、前髪が掛からなくていい」 「俺と逆」 「?あ!ミホちゃんは右が長いんだ?」 「生えグセのせいで絶対こっちにしか流せないんだよ」 へえ、生えグセはよく分かんないけどミホちゃんによく似合ってる。自分の髪をセットするのもやっぱり上手だなぁ。俺がやって同じようになる気はしない。 朝のコツなんかを教えてもらってみたけど、そこまで丁寧にやる時間はなさそうだなあ。 「めっちゃ話変わるけどさ」 「うん?」 「兄貴とやった?」 「ふおっ!?露骨!ミホちゃん露骨!」 「どうなの?」 グイッと顔を寄せて聞いてくるミホちゃん。逃げれる気がしなくておにーさんに助けを求めたかったのにリビングには居ない。どこ?ときょろきょろ探していると、俺を追い詰めるミホちゃんが兄貴は風呂行ったよと教えてくれた。おうのう…… 「飼われて3ヶ月くらい?兄貴手ぇ早いだろ?」 ああ、うん。それは早い。飼われたその日に摘み食いされたもん。けど最後までは今の所していない。 「意外。すぐやるかと思ったのに」 「おにーさんの策略だもん」 「は?」 「俺にねだらせたいんだよ。だからわざと物足りなくしてるんだよ、わかってるもん」 「ねだればいいじゃん」 「兄貴はちゃんとねだればやってくれるだろ。俺ならねだってもしないけど」 「ミホちゃんに会いたい阿川くんはどえむなのかな」 「それは置いとけ」 「おにーさんはねだったらしてくれると思うけど………」 ぶつくさという俺をしばらく見ていたミホちゃんはニンマリと笑った。この笑顔は絶対にいいことじゃない。逃げようとする俺の腕を掴んだミホちゃんは耳元で静かに言った。 「奥までぶっといの入ってくんの、気持ちいいよ。すっげぇいい。煽るためにおもちゃくらい俺は使うけど、そんなんより断然、ホンモノの方が気持ちイイ」 うっとりした笑顔で告げるミホちゃん。 ううっ、なんてことを教えてくれるんだよおっ! やっぱり気持ちいいの?おにーさんのだったら奥まで届いて太さも十分ってくらいは分かるけど、やっぱりおもちゃとは違うもの?知りたくなかったあ。 「誠くん、真っ赤」 「ミホちゃん、ほんと性格悪い」 「兄貴の弟だから」 「そうだね、おにーさんも性格………歪んでるもん」 「へえ」 感心したような顔をしたミホちゃんは俺の顔よりも高いところに視線を向ける。振り返るとお風呂上がりらしいおにーさんがいて、ホカホカそうなその体に抱きついた。そんな俺を気にすることなくおにーさんはヨシヨシと頭を撫でてくれて、ミホちゃんは呆れたようにため息をついた。 「つまんねー、そこ悪いって言ってくれたら良かったのに」 「こう見えて誠は学習能力高えよ」 「1回は言ったんだ?それにしても兄貴に懐きすぎ」 言った。言ったら痛い目に遭ったからそれ以降は悪いとは言わない。歪んでるって言い方をするようにしている。 それに懐いていて当然だ。俺はおにーさんに飼われてるんだもん。飼い主に従順ないい子なだけ。 おにーさんはうっとおしがるどころかいい子って撫でてくれることの方が多いし、ついつい甘えてしまう。 そうしているうちに、ミホちゃんはそろそろ帰るわと言って荷物を持ったのでおにーさんと見送りに行った。また来てね、お土産忘れないでねと言うとミホちゃんは噴き出して笑って、はいはいとおにーさんと同じように返事をして帰っていった。 2人きりになったいつもの部屋。 おにーさんも今はすることがないのか、夜なのにコーヒーを飲んで寛いでいる。 「おにーさん、明日はなに食べたい?」 「頼むから料理するな」 「そんなに心配しなくても出来るって!」 「いや、いい。帰ってきてから俺が作る」 「もお!いつものお礼がしたいのに」 「おかえりって言うだけでいいから。お前が料理してるって思うと仕事手に付かなくてらしくねえミスしたんだぞ」 「それ責任転嫁って言うんだよ」 おにーさんはバツが悪そうに頭を掻いて、マジでやめてくれと言った。この様子じゃ本当にらしくないミスをしたらしい。なら何かしてて欲しいことある?と聞いたら何もしないでくれって言われた。何もしないことをしてて欲しいってこと?そうなったら俺ソファに転がってゲームするだけだよ。1日家にいる人間がゴロゴロしてるのに、働いてきた人がせっせと家事するってどうなの。 「それでいいんだよ。大人しくゲームして昼寝して待ってろ」 「はぁい」 結局俺は何もしないことになった。 そのため、翌日も仕事のあるおにーさんがご飯を作り、洗濯をして、軽く掃除をしていた。その時俺がしていたのは邪魔にならないように移動することだけだった。

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