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翌日から2日間、予定のない俺はソファに転がってゲームをしているだけだった。おにーさんは言っていたように忙しいようで、8時近くになって帰宅する日が続いた。それでも手早くできるご飯をきちんと作ってくれて、家事だってきちんとしていたおにーさんはすごい。 そして何よりすごいと思ったのが、自分は働いてる中1日ゲームをしてぐうたら過ごす俺に文句ひとつ言わないどころか苛立った様子すらないのがすごい。普通なら苛立つと思う。自分はこんなに仕事して帰ってきて家事もしてるのにお前はなにぐうたらしてんだよ!って言われてもおかしくないのに、おにーさんはそんな様子は全く見せない。 「誠、ちょっとこっち来い」 「はぁい」 ただ、どうにも俺に構いたがる。 暇があれば俺は抱きしめられて撫でられている。 最初はなにをしてるんだろうと思っていたけど、どうにもおにーさんが俺に甘えているっぽい。おにーさんをカッコつけだと思ったことはないけど、こうして疲れて甘えてくる姿はなんとなく、可愛い。ずきゅんずきゅんする。 「誠、わん」 「?わん?」 「いい子」 残念ながら俺一発芸とか持ってないよ。間違っても犬ではないし。今のおにーさんはそんなこともあまり考えてないらしく、ただ俺をグリグリして、たまに目尻やおでこにちゅってしてくるだけだ。 そんなとこじゃなくて口にして、と口を尖らせて拗ねていると悪い子だなと言って口にもちゅーしてくれた。 それからもおにーさんは俺を構い倒し、寝る時だって離して貰えず、いつもおにーさんにしがみついて寝てるのにぎゅっと抱きしめ合うように寝れて、俺は安眠を貪った。 朝起きるといつも早起きのおにーさんはもう起きていて、リビングに行くといつもと同じすまし顔のおにーさん。どうやらお疲れモードは抜けてしまったらしい。 「おにーさんおはよぉ」 「おはよう」 「おにーさん、疲れると可愛いねえ」 「ああ?」 「甘えん坊だったあ」 バツが悪いと思ったのか頭を掻いてるけど、そんな顔しなくていいのに。 「ほんとに可愛かった」 「………それまた言うなら忙しい時期追い出すぞ」 「え、言わないもう言わない!思ってても言わないから追い出さないで!」 そんなに嫌そうにしなくても俺、別に嫌だなあとか気持ち悪いとか思ってないのに。 「おにーさん、まだしばらく忙しいの?」 「いいや、先週がピーク」 「旅行、この週末じゃなくても良かったのに」 「ここで入れなきゃ誠がまた毎日日を跨ぎだすだろ」 「俺はもう慣れてるから気にしなくていいのに」 「そんなのに慣れるな」 それはその通りなんだけど。 言い返す言葉を失った俺は黙って椅子に座った。おにーさんが作ってくれた少し遅めの朝ごはんを食べて、どこに行くのかを聞くと有名な温泉だった。そっかあ、おにーさん疲れてるし、俺もいつも残業続きだからこういうチョイスなのかも知れない。 地元の県からほとんど出たことのない俺だからどこに連れていかれても楽しめる。運転だってするよ!と挙手してみたけど、おにーさんにまだ死にたくないなんて失礼なことを言われて断られた。18になってすぐ車の免許を取って、実家の車を乗り回してたけど今のところ無事故無違反!原付の免許を16で取ったからすでにゴールド免許なのに全く信用されていないらしい。 「そんな膨れてたら可愛くねえぞ」 「俺のこと可愛いとか思ってないくせに」 「甘えてくるところは可愛いって思ってるけど?」 くううぅ。 こういうところ、ほんとにずるい。 俺も男だし、可愛いとか思われたいわけじゃないけどおにーさんに思われるなら悪くない。おにーさんには甘えるのも好きだし、甘えられるのも好きだ。言い返す言葉が思い浮かばなくて黙った俺に、いい子と空いた左手で頭を撫でられた。 車は高速に乗ってスイスイ走り、SAがあると寄ってくれた。 「おにーさん!たこ焼き!いか焼きも!あとあの焼き鳥!」 「そんな食ったら昼入らねえぞ」 「別腹!」 「今日のおやつは?」 「別別腹!」 「牛かよ」 「ならもう一個別腹あるね」 そういうことじゃないと頭を小突かれたけど、おにーさんはどれか1つにしろと言うだけで買ってくれるらしい。自分で買える金額なんだけどなあ。おにーさんは小学生にお使いを頼むように500円玉を1つ持たせてくれた。俺、もう成人してんのに。財布の中にもちゃんとお金入れてきたのになあ。 そんなことを思っても、おにーさんはこの500円玉を返させてくれるような人じゃ無いし、俺に出さすような人でも無い。せめて分けっこして食べようと思い、たこ焼きを買っておにーさんのところに戻った。 「おにーさんたこ焼き食べれる?」 「食えるけど」 「良かった。分けっこしよおね」 「はいはい」

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