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2日目は同期全員でお土産探しから始まった。 何度も来たことのある人に美味しいものを教えてもらいながらカゴにどんどん入れていく。 「伊藤くん、お土産どんだけ配るんだよ」 「全部俺用」 「こんなに食べてんの?」 「1日では食べないよ。けど美味しそうだし」 同期のみんながこれも良いなあなんて新しい商品を手に持つ俺を眺める。大方そんなに食うのにその体型?ってところだろう。 「激務だもん」 それだけ言うと全員が俺から目を逸らして不自然なほどにどのお土産が美味しいだの話し始めた。 満足行くほどお土産を買って、全員でクロークに預けて早めのお昼に入った。 「伊藤くん、やっぱり激務だとお給料いい?」 「うちの会社、ほんと働き出して数年給料やばいじゃん」 「たぶんみんなと変わらないよ。住宅手当貰ってよくて21万くらい」 あの残業で?と言われるけど、あの残業をしててその給料だ。みんなびっくりしてるけど、俺の方がびっくりだ。残業地獄の俺と大体定時で帰れる同期の給料が変わらないなんて分かっていてもショック過ぎる。 「その割にお土産めっちゃ奮発じゃん」 「お金使う暇ないんだって。遊びに行くならゴロゴロ寝転がってゲームしてたい」 こうして同期みんな揃って話すのは久しぶりで、それぞれの部署の愚痴を聞いた。忙しくはなくても人間関係がギスギスしていてものすごく気を使ったり、人間関係がドライすぎて聞きたいことも聞けなかったりとそれぞれ色々あるらしい。案外みんな仕事への愚痴を持ってるもんだと思いながらパークの中での時間は過ぎていった。 14時過ぎに帰りのバスに乗り、行きと同じように阿川くんの隣に座る。そして、阿川くんはお土産袋の中からひとつ取り出して、どう思う?と見せてくれた。 「誰用?」 「ミホちゃん」 「似合うと思うけど絶対につけないと思うよ」 ノリはいい方だろうからテーマパーク内ではこういうのを付けてたりはしそうなイメージだけど、わざわざお土産にこれ貰っても突き返し………いや。ミホちゃんのことだ。引ったくって阿川くんにこのリボンのついたネズミ耳を付けて似合わねえとか言いながらいたぶりそう。 「やっぱり似合うと思う?」 「うん。けど絶対つけない。阿川くんがつけられる覚悟決めた方がいいと思う。似合わないと思うけど」 「やっぱり食べ物の方が無難?」 「その前に渡せるといいね」 「………伊藤くんはミホちゃんによく会うの?」 「散髪してもらう時だけだよ」 「え?」 何かおかしなこと言った? 「ミホちゃん美容師?」 「それも知らなかったの?」 「…………」 「ミホちゃん、まだお客さんは切れないんだって。少し髪が伸びたら相談してみたらいいよ」 阿川くんはそんなに髪は伸ばしてる方じゃないけど、男の場合数ヶ月に一度は切るし、切りたい時に相談したらきっと切ってくれると思う。仕事が好きなことも知ってるし、俺の髪を切るミホちゃんの手は優しくて、すごく楽しそうに笑っている。 阿川くんはちょっと切るの我慢してみると言っていた。これも俺の入れ知恵って知ったらミホちゃん、今度は怒るかなあ。カット練習台を増やしたことにはなるけど、ミホちゃんが会いたくなかったなら申し訳ないなあと思う。けど折れてでも会ってるくらいだし、カット出来るなら許してくれるかもしれない。 余計なことはしていないはず、と自分に言い聞かせた帰り道だった。

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