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72.
定時に仕事を無理やり終わらせて、タイムカードを押す。
何度見てもタイムカード上では定時出勤定時退勤。
実際は定時の1時間前から働いて、定時の4、5時間後まで働いてるのになあとぼんやり眺めて終わる。何を言ったって俺が変えれるはずもないし、人出が増えることをただ祈るばかりだ。
出勤していた人に挨拶をしながら外に出て、止めていた原付に跨って家まで帰る。
今日の夜ご飯何かなあ。おにーさんは休みだからおやつも楽しみだなあ。そんなことを考えながら家まで帰った。
「ただいまぁ」
「おかえり」
ソファで寛ぐおにーさんの後ろからぎゅっと抱きついて、手元を見ると何やら本を読んでいたらしい。邪魔した?と聞けばいいよと言われたからそのままグリグリと顔を擦り付けた。
おにーさんと並んでソファに座って、本当にどうでもいい話をする。おにーさんの会社の愚痴は新鮮だったけど、1番内容があったのは年末のお話だった。
「誠は年末年始どうなんの?」
「さすがに休み。みんな研究とかキリが良いところで切り上げる予定だから年末は残業減ると思うよ」
「実家帰んの?」
「帰ってくんなって言われたあ」
「はあ?」
「姪っ子が全員集合するらしくて、俺に割く部屋はないって言われた」
「お前おじさんなの?」
「うん。ある意味こいって言われなくてよかった。お年玉にいくら消えるか……」
「姪っ子何人いんだよ」
「えっとね」
思い出しながら指折り数える。長兄に3人、次兄に2人、三兄に2人と四兄に1人だから8人!と答えると多っ!って言われた。そもそもきょうだいが多いからね。しかも全員男のきょうだい。で、そこから生まれた子どもは全員女の子だから俺には姪っ子しかいない。
何人産んでも男しか生まれなかった我が家にやってきた孫は女の子で、年の離れた末っ子の俺よりも初孫を可愛がっていた両親の気持ちも分からなくはない。
「1番上のにいちゃんのところだと上の子もう中学生だから1万円くらいいるじゃん。で、1番下がいくらまだ生まれて数ヶ月だからって差をつけるのもどうかと思うから。でも8万はびっくり」
「………待て、姪が多いのは分かったけどきょうだいは何人だ?」
「上に4人にいちゃんいるよ」
「かなり年離れてる?」
「うん、直近のにいちゃんだっておにーさんより年上だよ」
1番上とは15、近い兄で8歳差。
最後の最後に、両親が1人くらい女の子を!と願って産んでくれたのが俺で、まあ男だった。兄達もかなり残念がったらしいけど、きちんと愛情を持って育ててもらえた。
「出張が年明けになると思うから、その時は泊まるからそれで良いかなあって。おにーさんはどうするの?」
「俺も帰らない。どうせ母さんと穂波の運転手させられるに決まってるし」
「おにーさんって何だかんだ優しいから付き合ってくれるって分かってるんだね」
「誠はどっか行きたいところあるか?」
「初詣!」
「ちゃんと詣ってからおみくじ引けよ」
「はあい」
寛ぎながら初詣はどこに行くかと話している間に時間はあっという間に過ぎた。俺は仕事運が下がるところに行きたいと言ったけど、上がるところはあっても下がるところはねえよと言われてしまい項垂れた。
「なら縁結びのところいきたい!」
「………」
「おにーさんにずっと飼って貰えますようにってご縁を結ぶの」
「ああ、そういうこと。それなら家内安全の方がよくねえ?ペットも家族だろ」
「うーん、そう、かなあ?」
どっちでも良いんだけど、おにーさんと仲良く暮らせますようにって祈る。仕事運を下げれないなら、せめてこのくらいは祈ったって良いはずだ。
「大丈夫。悪い子になったらちゃんとお仕置きして反省させるけど、捨てたりはしない」
「………おにーさんのお仕置き、やだ」
「お仕置きだからな、喜ばれると意味ねえよ」
別に酷いことなんてされなかった。ただおにーさんにぎゅっとできなかっただけだけど辛かった。せっかく一緒にいるのに、ものすごく寂しかった。
どうやらおにーさんは所有物に対してかなり独占欲があるらしい。それはそんなに気にならない。最初から尻尾を振るなと言われていたし、尻尾を振る気にならないほどおにーさんは可愛がってくれるから不満はなかった。
だけど、お仕置きは別だ。お仕置きはもうされたくない。エッチの時に痛いことをされる以上に、抱きつけない方が辛かった。おにーさんのいうお仕置きは痛い時もあるけど、精神的ダメージを与えられる時の方が辛いと今はもう知ってしまったから、お仕置きは嫌だ。
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